フラマンタスの刃52
マリアンヌ姫らは町の探索に出て行った。大きく分けて二組だ。
姫とコモド。ダニエル、アネーリオ少年、ギュネだ。
彼女らが出て行ってから三時間は経っている。フラマンタスは綺麗に縫われた自分の左手を見詰めていた。
姫らが合流した時、ギュネが目ざとくフラマンタスのケガに気付いたのだった。
「また、無茶したわね」
ギュネは呆れたように言った。
「そう、無茶したのよ」
コモドが腕組みしわざとらしく重々しく応じる。
ギュネは手近の民家に入り、裁縫道具を持って来た。
結果、フラマンタスの傷は彼女の手で縫合された。手並みも慣れたような手つきでフラマンタスは痛みなど忘れ迂闊にも惚れ直した。
そうしてマグナスとヒューと共に彼女らの連絡、あるいは帰りを待っている。
呪われた巨剣はそのままだ。話すことも乏しく鍛冶屋を見付けたら炉に入れて溶かしてしまおうということを再確認するぐらいだ。
更に二時間待つと、虚空からクリス君が脚に手紙を結ばれ飛んできた。
「姫様からだ。町の南東部に鍛冶屋を見付けたということだ」
マグナスが書面を読む。
そしてフラマンタスとヒューが呪われた巨剣を見下ろしているのに加わった。
「こいつは人を支配する剣です」
フラマンタスはマグナスに言った。
「そうだな。どうやって運ぼうか」
三人揃って出た答えは、あまり剣に触れずに運ぶ方法、すなわち、柄先を縄で結び、鍛冶屋まで引っ張って行くということだった。
代表してフラマンタスが結び、引きずる役目となった。
つま先で柄先を持ち上げ縄を通して縛った。悪意は流れて来なかった。
「では、行こう」
上空を飛ぶクリス君を案内とし、フラマンタスが先行する。金属と石畳が擦れる耳を塞ぎたくなるような音が続く。マグナスとヒューはもしも剣から敵が現れた場合に備え、距離を置かずして後に続いて来る。
不意にフラマンタスの身体は力強く引っ張られた。
馬の嘶きが木霊する。
振り返る。黒の乗り手が現れた。
圧倒的な力でフラマンタスの握力をもってしても握っていた縄はすっぽ抜けてしまった。
「野郎、出やがったな!」
ヒューが声を上げた頃にはフラマンタスは刀身半ばから折れた十字剣を鞘から抜き放っていた。
灰色の大きな馬は棹立ちになり、フラマンタスらを寄せ付けない。
剣に括りつけた縄が一気に煙を上げ黒焦げになった。
正面にマグナスとヒューが、後方にはフラマンタスがいたが、黒の乗り手は馬首を巡らせてフラマンタスの方へと向いた。
来るか!?
身構えるフラマンタスだが、黒の乗り手はそのままフラマンタスの隣を走り去って行った。
「逃げたか。つまり、よほど重要らしいなあの剣は」
マグナスが訝し気に言った。
その通り、わざわざ取り戻しに来たのだ。以前戦って斃れた者が復活したのか、別の乗り手が現れたのかは分からなかった。一太刀浴びせられなかったのは自分が剣を失ったも同然となり、弱気になっていたのだろうか。フラマンタスはそう思った。剣を見る。もはや十字剣は役目を終えてしまった。新しい武器を探さなければならない。
マグナスの提案でそのまま三人は鍛冶屋へと向かった。
クリス君の案内で歩きはしたが迷わず鍛冶屋へ着くことができた。
マリアンヌ姫とコモドが待っていた。
「姫、申し訳ありません。剣を奪われました」
マグナスが謝罪すると姫はかぶりを振って微笑んだ。
「皆さんが無事で何よりです。黒の乗り手はまた挑んで来るでしょう。斃す機会は幾らでもあります。それにしても取り戻しに来るほど、あの剣は敵にとって重要な物なのでしょうか」
「私もそれを考えていました」
マリアンヌ姫とマグナスが話している間、フラマンタスは新しい武器のことを考えていた。長柄の斧か、槍か、慣れ親しんだ両手剣にはフラマンタスの力を発揮できるほどの物は存在しないだろう。
「フラちゃん、フラちゃん」
コモドが呼んだ。
「何だ?」
「折れた剣と刃を貸してくれない?」
「どうするつもりだ?」
もうこの剣は処分するほか無いというのに。フラマンタスはしばし剣との歩みに思いを馳せていた。
「ここが何だか分かる?」
「鍛冶屋だ」
「そうそう。だから貸してみそ」
その言葉を理解するのに数秒を要した。
「まさか」
「そう、俺っちが直してあげるよ。鍛冶なら経験あるんだ」
十字剣が直る!?
「できるのか!?」
フラマンタスは思わず声を上げていた。コモドがウインクする。
「どうしたフラマンタス?」
マグナスが気付いて尋ねてきた。フラマンタスは折れた剣を見せた。
「いえ、すみません。コモドがこれを直せると言ったものですから」
「それは良かったな」
マグナスは笑みを浮かべてフラマンタスに向かって頷いた。
フラマンタスは折れた剣と折れた刃をコモドに渡した。
「しばらく時間かかるから、見張りにフラちゃんだけ置いてみんなは帰って良いよ」
コモドはフラマンタスの武器を預かるとそう言った。
「では、我々は猛牛の里にいる。途中でダニエル達と合流してな。いなければ宿に戻っているだろう」
マグナスが言った。
「分かりました。道中お気を付けて」
フラマンタスが応じると、マグナスらは引き上げて行った。
あとにはコモドとフラマンタスだけが残った。
「これ、役不足かもしれないけど、念のために」
コモドが愛用の長剣を差し出した。フラマンタスがそれを受け取ると、コモドは鍛冶屋の中へ入って行った。
静寂がしばし続き、フラマンタスは扉の前に座り込んだ。そして事が上手く運ぶ様に祈ったのだった。




