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フラマンタスの刃51

 風の唸りを上げた瞬刃をフラマンタスは十字剣で受け止めた。

 剣越しに、いや、もはや肩が押されている。呪いの膂力を抑え込めない。

 馬上から振り下ろされた一撃を前に彼の十字剣は大きくうねった。

 いかん、このままでは。

 そう思った時だった。フラマンタス特製の十字剣は大きな音を立てて刃の半ばから圧し折れ飛んだ。

「フラマンタス!」

 マグナスが割って入り、黒の乗り手の相手となった。

 入隊し、一戦士として認められた証でもある剣は太い刃を五十センチほど残していた。

 マグナスと黒の乗り手が戦い、ヒューが助勢に出ようとしている。

「フラちゃん」

 コモドが折れた刃を拾って布で掴んで持ってきた。

「破片は無いね、綺麗に真っ二つだ」

 コモドの言い方は慰めているかのようだったが、フラマンタスにとっては癪だった。

 不意にマグナスが吹き飛んだ。

「野郎!」

 次いでヒューが敵の相手となる。

 マグナスが立ち上がり戻って来るが、胸の甲は大きな亀裂が入っていた。

「フラマンタス! 戦えるか!?」

 マグナスが声を上げた。

 フラマンタスは剣から目を上げて、どう答えるべきか悩んだ。

「それだけ残ったのなら、まだいける。フラマンタス呆けている場合ではないぞ、よく聴け! あの呪われた剣を介して敵は現れた。猛牛の里付近に転がっているもう一本からもおそらく敵は自在に現れることができるだろう。私はヒューじいさんとこいつの相手をする。お前はコモド殿と共にもう一本の剣の元へ急げ!」

「大丈夫、大丈夫、俺っちがついてるよ。剣の仇を討ちに行こうよ」

 コモドが言い、フラマンタスは我に返って敬礼した。

 二人は駆けた。

「剣の仇と言うなら奴こそ俺が討ちたかった」

「でも、理由は分かるんでしょ?」

「ああ」

 ヒューじいさんは強いが足のケガが完治していない。あまり動かせないということだ。彼の責任を持つつもりでマグナスは残ったのだ。

 フラマンタスは左手に折れた十字剣を持ち、もう片手で折れた刃の方を手にしていた。

 二人は大通りを駆けた。

 猛牛の里の通りへ来た時だった。

 前方から馬蹄が木霊した。

「来るよ」

 コモドが言い、フラマンタスは折れた刃を一旦、地面に置いた。

 灰色の武装した大きな馬が現われ、身を包む黒い外套を靡かせて、敵が現れる。

「ここの奴は斃したんだよね?」

「ああ。ダニエルが証人だ」

「だとしたらこいつは別人? それとも復活したのかな?」

 黒の乗り手が巨剣を振り上げコモドに斬りかかった。

 だが、フラマンタスは驚くべき状況を目撃した。コモドは避けるとすぐさま跳躍して灰色の馬の背に跨ったのだ。

「ま、良いんだけどね。斃しちゃえば良いわけだし。御命頂戴!」

 呆気なかった。

 長剣が黒の乗り手の首を掻っ切ろうとした時、コモドが突然跳び下りた。

「熱い!」

 見れば、コモドの尻から煙が上がり、ズボンは臀部が焼け落ち、肌が丸見えだった。

「見ちゃいやん」

 コモドはそう言い、尻を叩いて火を消した。

 その間に黒の乗り手は馬首を巡らせ、こちらへ再び突っ込んで来た。

 巨剣が振り下ろされ、フラマンタスは避けた。風の唸りが続いて襲って来る。

 くそっ、また馬を殺して地上へ引きずり落とすか。

 決定打が無かった。

 今の剣ではこの灰色の馬の首を分断することも、甲冑も割ることもできない。

 戦線に復帰したコモドが手数と足さばきでどうにか敵を翻弄している。今こそが好機なのに俺には何もできないのか? 剣の無念を晴らすことも……。ふと、フラマンタスの脳裏を雷光の様な閃きと覚悟が過ぎった。彼は地面に置いた折れた長く分厚い刃を握った。

 そしてコモドを押し退け、馬上でこちら側に身を乗り出していた黒の乗り手のベールの顔面へ力任せに刃を突き立てた。

「シューッ!?」

 黒の乗り手はそう鳴くと、馬共々霞のように消え去った。十字剣の刃と敵の呪われた剣が地面に落ち、静寂の訪れを教えてくれた。

「ちょっと、フラちゃん!? 何やってんの、血がたくさん!」

 その通り、刃を力任せに握ったため左手の平は、その鋭利さで長く深い傷口が五本の指と手の平に刻まれ、鮮血がボトボトと滴り落ちていた。

「十字剣の痛みに比べばこのぐらい」

「ああ、何て無茶するんだよ。まぁ、おかげで助かったけど。いや、それでも何て無茶をしたんだよぉ!」

 コモドは混乱気味にそう言い、フラマンタスの手の傷と敵の残した呪われた剣とを見た。

「敵の剣だが、どうする? これは持った者を支配する力がある」

 フラマンタスは手の激痛に顔をしかめることなく、努めてそう尋ねた。

「俺っちもそれを考えていたところ」

 コモドは長剣の先で敵の残した炎を模したような巨大な剣をつついていた。

 ちょうど、マリアンヌ姫の忠実な猛禽の友クリス君が下りて来た。クリス君はフラマンタスの右腕に止まった。

 その愛らしくも勇敢そうな顔を見つつ、コモドがクリス君の脚に括りつけられた手紙をほどいた。

「何々、敵は逃亡。これより、そちらの支援に移る」

 マグナスからの手紙だった。

「クリス君ありがとう」

 フラマンタスが言うと、クリス君は飛び去った。

 時間は掛かったが、マグナスとヒューが合流した。ヒューは足の具合が悪化したようだが、フラマンタスの左手の傷を見て目を丸くした。

「若造、無茶やったようだな」

「この程度で済んで良かったと思っている」

 フラマンタスは老戦士に向かって応じた。

 マグナスとコモドは敵の残した剣を見ながらどうするべきか話し合っていた。

 フラマンタスとヒューも混ざり、最終的な結論として、ここにマグナス、フラマンタス、ヒューと三人を見張りに置き、残りの仲間達でこの広い町をもう一度探索し、鍛冶屋を探すということで話は決まった。鍛冶屋の炉で邪悪なこの剣を溶かしてしまうのだ。クリス君はマグナスらについてきたらしく、上空で旋回していた。

 マグナスが書状を用意した。

「既にこうなることを御存知でしたか?」

 フラマンタスが問うと、マグナスはかぶりを振った。

「そういうわけではないが、有事に備えて簡単な要望書はしたためて置いたのだ」

 降下し、マグナスの左腕に止まったクリス君の脚にコモドが書状を結び付けると、クリス君は飛んで行った。

 このまま良い状況に進んでくれれば良いが。

 フラマンタスは呪われた巨剣を見てそう願ったのだった。

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