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フラマンタスの刃50

 新たな脅威を前に、例によって戦士達は眠れぬ夜を過ごした。フラマンタス、マグナス、コモド、ダニエル、ヒューは一晩中、見張りに就いた。

 黒の乗り手が何騎いるか分からない。油断できない夜だった。しかし、夜が明けても敵は現れる気配を見せなかった。

 マリアンヌ姫とギュネ、アネーリオ少年が宿の建物から外に出て来た。

「御勤め御苦労様です」

 マリアンヌ姫が言った。

「御存知のように敵は動きませんでした。少なくとも、フラマンタスが銭湯の前で相手をした者、私達と戦っていた者は健在のはずですが、出て来ませんでした。皆と話し合って囮を出して待ち伏せしてみてはどうかと考えていたところです」

 マグナスが言った。夜明けが近づく前に今夜の襲撃は無いと確信したフラマンタスらが話し合って出した答えだった。

「囮を? 大丈夫なのですか?」

 マリアンヌ姫が驚いて尋ね返した。

「ええ、近くに他の者を潜ませますので問題は無いと思います」

「黒の乗り手が複数現れたらどうするつもりですか?」

 姫がすぐさま言った。

「囮には私とフラマンタスが志願し、コモド殿とヒューじいさんにそれぞれ隠れていてもらう形になります。もしもの時は姫様の賢い猛禽、クリス君で伝令を飛ばすことに決めています」

 マグナスは実際、姫の質問には答えているようで答えていなかった。敵が二騎、三騎ぐらいならどうにか二人がかりで何とかなるだろうが、姫の言う複数とはそれを更に超えたものだった。だが、方法がこれしか無い以上、姫も反論はしなかった。

「そんなことより、やることがあるよ」

 あくびを噛み殺しながらコモドが言った。

「何をするんですか?」

 ダニエルが尋ねる。

「ん、ほら、奴らが残していった剣さ。あれは絶対呪われた代物だね。もしも他の旅人が来た場合、触れたら大変なことになるかもしれない」

 コモドの問いに一同は沈黙した。フラマンタスは誰かに判断を委ねるという真似をしたくはなかったが、既にここでは序列が出来上がっている。マリアンヌ姫か、マグナスが最終的に決を下し、それに従うまでだ。今はそれで納得している。

「分かった。残された剣があるのはフラマンタスが戦った銭湯と、コモド殿達がいた猛牛の里付近。ちょうど、囮作戦に使おうと思っていた場所だな」

 マグナスが言った。

「ヒューじいさん、あなたを頭数に入れているが歩けるか?」

 マグナスが問うとヒューはニヤリと笑った。

「これでお前達と対等のつもりだぜ」

「ヒュー、無茶しては駄目です」

 マリアンヌ姫が厳しく言ったが、ヒューはその場で跪いた。

「姫、御心配はいりません。このヒューは必ず他の者達と任務を成し遂げて見せます。なので、御心配は無用です」

 ヒューが畏まって言うとマリアンヌ姫は応じた。

「分かりました。無理しては駄目ですよ」

「ははっ!」

 ヒューは一礼し、立ち上がった。

「誰が行くの?」

 アネーリオ少年が言うと、マグナスは応じた。

「私とフラマンタス、コモド殿とヒューじいさんだ。他の皆はここで待っていてくれ。ここが狙われないという保証はない。事実狙われた。くれぐれも油断しないように」

「分かりました」

 ダニエルが応じた。ギュネも頷き、アネーリオ少年もそれに倣った。マグナスはくれぐれも姫様をよろしく頼む、とは言わなかった。マリアンヌ姫も教会戦士見習いだ。敵の規模が分からない以上、戦力として考えているのだろう。

「では、我々は行こう」

 こうしてマグナスを先頭にコモド、ヒュー、フラマンタスは続いた。



 2



 最初に来たのは銭湯の前だった。

 剣はあった。それを現すものとしたら燃え盛る炎だろうか。長く分厚い剣だ。鍔から扇状に不揃いに突起が飛び出、最終的には太く長い刃が中心から突き抜けている。鍔の炎の部分も刃であった。

 四人は触らずに観察した。

 さて、誰が掴むのか。

 マグナスが手を伸ばそうとすると、ヒューが止めた。

「若造、お前は姫様と皆を率いる立場だ。迂闊なことをするな」

「そうか。ならば誰が持つ?」

「その前にさ、これを持ってどうするの? 誰も収拾に来ないゴミ捨て場に捨てるの?」

 コモドが鋭く指摘した。するとマグナスは腰から大きな薄手の外套のような布切れを広げた。

「これは我々が持って行こうと思う。旅の途中、どこか、精錬所が見つかれば、溶鉱炉に入れてしまうつもりだ」

「納得。それしかないよねー」

 コモドが応じた。

「さて、誰が持つ?」

「俺が」

 ヒューが手を伸ばそうするのをフラマンタスは気付けば止めていた。

「お前がやるのか?」

 ヒューがこちらを見て尋ねた。自分でも何が起こるか分からないが、気付けばヒューを止めていた。真紅の屍術師の言葉を思い出す。仲間を一人ずつ失わせ、俺に絶望を見せると奴は言っていた。

「ああ、俺が持つ。有事の際は、隊長、コモド、ヒュー、俺を斬ってくれ」

 フラマンタスは仲間達が神妙に見守る中、この剣の太い鉄の柄を掴んだ。そして持ち上げようとするが、重かった。黒の乗り手が骨のくせにどれほどの呪われた膂力を発揮していたのか思い知らされた。

「フラちゃん平気?」

「ああ」

「フラマンタス、剣を早くここへ」

 マグナスが石畳の上に布を広げた。

 フラマンタスはその上に置こうとした。しかし、その瞬間、雷撃に撃たれたように、彼の身体は不快な者に乗っ取られようとするのを感じた。

「フラマンタス、フラマンタス」

 身体に入り込んで来た来訪者が名前を呼ぶ。

「誰だ、お前は?」

「フラマンタス、早く剣を置け!」

 マグナスが言ったが、フラマンタスは剣を両手で握り締め、天へ掲げた。

「フラマンタス、こいつらを殺せ」

「誰かは知らんが、俺の身体はやらんぞ!」

「フラマンタス、飲み込まれるな! 早く剣を!」

 マグナスの声は霞のように聴こえた。コモドとヒューが得物を手にし、身構えている。

「フラマンタス、さぁ、こいつらを斬れ。真紅の屍術師様の命令は絶対だ。新たな暗黒の騎士フラマンタス」

 フラマンタスを支配する何者かがついに肩付近まで侵食してきたのを感じた。このままでは意識までも支配される。

 するとその時、ヒューが掴みかかりフラマンタスの手から剣を引き抜いた。

「ぐおおおっ!?」

 ヒューは悲鳴を上げて布の上に剣を置いた。

「ヒュー! ぐっ!?」

 鮮烈な痛みを感じ手のひらを見るとそこは焼けただれていた。

 マグナスが急いで布で剣を包んだ。

 ヒューの手にも火傷の痕があった。

 フラマンタスは荒い呼吸をしていた。自分を侵食していた者はもういない。

「やはり、この剣は呪われています。強い呪いです」

 フラマンタスは息を整えながらそう言うのが精いっぱいだった。

「ひとまずはこれで」

 マグナスが言い終える前に異変が起きた。剣を包んでいた布が燃え上がり、剣が浮き上がった。

 瞠目して見ていると、そこに大きな馬の影と隻腕の騎乗者の姿が現れた。

「黒の乗り手だ!」

 マグナスが声を上げるや、黒の乗り手は馬を嘶かせ棹立ちにすると、手綱から手を離し、残った左腕で剣の柄を掴み取ったのであった。

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