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フラマンタスの刃48

 灰色の馬は大きかった。それだけでフラマンタスを圧倒するが、その骨の乗り手が繰り出す一撃は幾重にも十字剣を軋ませた。

 手綱を操り、黒の乗り手は巨剣を右腕で軽々と操る。言葉なのか鳴き声なのかあるいは呼吸なのか知らないが、「シュー」と黒いベールの下から音が漏れる。

 良いようにあしらわれ、フラマンタスは反撃の機会さえ奪われていた。

 俺が斃れたらギュネさんが。それだけは絶対にさせない!

 足元を崩してみてはと思ったが、馬も甲冑を纏っていた。刃の通る隙が無い。フラマンタスは死中に活を求める気分だった。

 ただこれ以上、打ち合うことは止めた方が良いとは思った。剣に負担がかかり過ぎる。フラマンタスに合わせた特大の十字剣だ。教会戦士としてこれを失うわけにはいかない。

 不意に、上空から一筋の影が急降下し、黒の乗り手の顔のベールを引き裂こうと飛び回った。

 マリアンヌ姫の使い、猛禽のクリス君だ。

 黒の乗り手は手綱から手を離し、クリス君を鬱陶しそうに振り払おうとした。

「今よ!」

 背後でギュネが声を上げ、フラマンタスは無防備な骨の腕目掛けて剣を薙いだ。

 骨の腕と握られた剣が落ちる。

「シュー!」

 黒の乗り手は馬首を返して立ち去ろうとした。ギュネがその後を追おうとするが、フラマンタスは慌てて制した。

「奴らの仲間がいるかもしれない。合流されれば戦況はひっくり返ります」

 フラマンタスは言った。その腕にクリス君が止まる。左足に書状が括りつけてあった。

 姫様からか?

 嫌な予感がし、フラマンタスは慌てて書状を解いて中身を読んだ。急いでいたのかそこには簡潔な文字が書かれていた。

「援軍乞う」

 口に出すとクリス君が飛び去った。

「どうしたの?」

 ギュネが尋ねてくる。フラマンタスは振り返って言った。

「姫様が危ない。急いで宿へ戻りましょう!」

「分かった!」

 二人は駆けた。



 2


 宿の前ではヒューが戟を振るい、同じく一騎の黒の乗り手と対峙していた。遠くからでもわかる。足の完治していないヒューは劣勢だった。

「ヒュー!」

 フラマンタスは老戦士に合流した。

「フラマンタス、この妙な骨野郎、なかなかやるぜ」

「既に出会った」

「お前のところにも来たのか?」

 ヒューが驚いたように言った。

「ああ、片手だけ落として退散させたが、こいつは両腕が顕在しているところを見ると、俺と対峙した者とは違う者だろう」

 すると、これ以上のお喋りはさせぬつもりか、黒の乗り手が剣を振るい、武装した馬を乗り入れて来た。

「姫様は?」

 フラマンタスは右に避けながら尋ねた。

「上だ」

 左に避けたヒューが応じた。

 見ればバルコニーに姫の姿があった。

 ギュネが息を切らせて遅れて到着する。

「フラマンタス、アンタ、足、速すぎ」

「ギュネさんは宿へ入って姫様の護衛をお願いします」

「分かったわ」

 ギュネは宿へ飛び込んで行った。

「さて、俺ら、ブラックドラゴンコンビでどこまで相手にできるか楽しみだな」

 ヒューが不敵な笑みを漏らす。

 ヒューと共にフラマンタスは黒の乗り手に襲い掛かった。

 剣を戟を黒の乗り手は軽々阻んでみせたが、ヒューがその脚に取りついた。

「さすが骨っこ! 軽いぜ!」

 ヒューは黒の乗り手を引きずり下ろした。

 地面に仰向けに落ちた黒の乗り手のベールに向かってフラマンタスは刃を突き立てた。

 固い感触だが、割れたのが響いた。

「シューッ!」

 黒の乗り手は痙攣し、そしてその手から剣が落ちた。巨大な剣が石畳の落ちる音がすると、灰色の馬は弾かれたように駆け去って行った。

 黒の乗り手は動かなかった。

 ギュネとマリアンヌ姫が下りて来た。

 一同は固唾を飲み、ヒューがベールを剥ぐのを見守った。

 そこには予想通り、骨の頭蓋があった。今、脳天はフラマンタスの十字剣で砕けていた。

「真紅の屍術師の手の者でしょうか?」

 マリアンヌ姫が尋ねる。

「おそらくは」

 フラマンタスは頷いた。

「そうだ、マグナス達は大丈夫でしょうか? 特にコモドさん達はお酒を飲みに出て行かれましたし」

「世話の焼ける若造たちだ。見てきます」

 ヒューが動こうとしたが、フラマンタスが肩に手を置くと相手は振り返った。

「俺が行こう。ヒューはギュネさんとマリアンヌ姫の護衛を頼む」

「分かった」

 老戦士は頷いた。

 フラマンタスは駆けようとした。

「フラマンタス!」

 不意に背に声が掛けられた。

「気を付けて」

 ギュネが真剣な表情で言った。

「心得て置きます。姫様、何かあればクリス君を飛ばしてください。駆け付けます」

「はい、フラマンタスさん、よろしくお願いします」

 フラマンタスは頷き駆けた。マグナスとアネーリオ少年は町の何処にいるのかわからない。ならば、ほぼ猛牛の里にいることが確定なコモドとダニエルの方を優先させるのは賢明な判断だろう。

 静かな町は黒い幽鬼の襲撃を受けて、再び陰惨とした気持ちにさせてくれた。猛牛の里の近くまで来ると、剣のぶつかる音が聴こえて来た。

「コモド! ダニエル!」

 フラマンタスは再び急いだ。

 見えた。黒の乗り手がダニエルを相手にして圧倒していた。

 コモドはどうした?

 フラマンタスの気配に気付いたらしく、黒の乗り手がこちらを振り返り、馬を駆けさせてきた。

「フラマンタスさん!」

 ダニエルが声を上げる。無事なようだ。

 だが、コモドはいないのか?

 黒の乗り手が巨剣を振るう。フラマンタスは避けに避け、生まれた隙を見逃さず、気合の一刀を大上段から放った。

 剣は灰色の巨大な馬の首を甲冑を拉げさせ斬り落とした。

 大量の血が飛ぶかと思われたが、首を失った馬は、首諸共、霧のように消滅した。

 地面に馬を失った黒の乗り手が立ち塞がる。

 フラマンタスは敵と睨み合った。黒の乗り手は両手で巨剣を掲げ持ち、低く唸った。ベールの下からは強烈な殺気が感じられた。

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