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フラマンタスの刃47

 休暇と言っても何をすれば良いのか分からない。ましてや亡者を焼いた跡が幾つも残り、一部はドラゴンが破壊した町は、とても静かで何の音も聴こえなかった。

 マリアンヌ姫はヒューの看護のために、上等なベッドのある宿屋へ残り、マグナスはアネーリオ少年と共に町の外周を走りに出た。コモドとダニエルは美味い酒を探しに猛牛の里へと足を運んでいる。

「休暇と言っても何をすれば良いのか分からないな」

 フラマンタスは油断なく全部の装備を付けて初夏の町の中を歩んでいた。ただ座り込み、呆けたように一日を過ごす。そういう過ごした方も近年は必要だという意見が出たようだが、フラマンタスは今はどうも落ち着けなかった。

 磨き終えた十字剣をもう一度磨くのか。

 いや、休暇と言えど何か目的を持って一日を過ごしたい。

 目的を探し始める。打ち漏らしたゾンビの有無はマグナスやコモドらが散々探し回ってくれた。

 目的か。

 半日近くそうやって町の中を歩き回り、フラマンタスは汗に塗れていた。

 風呂に入ろうと思ったのは、マグナスとアネーリオ少年が出て来たところに出くわしたからだ。

「あ、フラ兄ちゃん! 隊長に泳ぎ方を教えてもらったんだ」

 少年が嬉しそうに言う。

「アネーリオ君は元気で、私には持て余し気味かもしれん」

「隊長! 次は剣を教えてよ!」

「ああ、そうしよう」

 二人が風呂に入ったということは銭湯の大浴場の湯は新たに張られたということだ。

「俺も一風呂浴びに行くか」

 こうしてフラマンタスの目的が決まったのだった。



 2



 銭湯に行く間にゾンビ達は勿論、仲間達とも会わなかった。ここは制圧に約三日を要した広い町だ。その中の六、七人が会う方が偶然だろう。

 フラマンタスは鎧と肌着を脱ぐと籠に入れる。

 彼は籠置き場へ目を向けず、剥き出しの木製の着替え部屋と浴室とを隔てる木の扉を押し開いた。蝶番は鳴らなかった。実はこれまで扉の蝶番は開け閉めする度、軋み音を上げていた。今日は扉の機嫌が良いらしい。

 タオルを引っ掴み身体を洗おうと石鹸台のところへ歩んだ時だった。

「きゃっ!?」

 女性の声がした。

 湯煙で見えないわけでは無かった。薄ぼんやりとだが、緋色の長いクセ毛を濡らし、左腕で胸を、右手のタオルで股を隠したギュネの姿があった。

「え!? ギュネさん、いたんですか!?」

 フラマンタスは驚いて声を上げた。

「いたんですかじゃないわよ! ここ、女湯よ!」

 顔を紅潮させながらギュネが言った。

「しまった、すみません! 間違えました!」

 フラマンタスは慌てて退散しようとしたが、不意に呼ばれた。

「待って」

 その言葉は呟きよりは大きかったが密閉された浴室では良く聴こえた。

「何です?」

 フラマンタスは背後を振り返らずに言った。

「アンタの背中、洗ってあげる」

「そんなに汚いですか!?」

「違うわよ! ただの気まぐれ! もうタオルで包んだからこっち向いても平気よ。あ、待って! 股間は隠してよね!」

「え、ええ」

 フラマンタスは苦労してタオルで股間を隠した。

 バスタオルで身体を隠したとはいえ、肩は隠れず露出していた。そんなギュネを見る度、心臓が高鳴り、身体が熱くなる。

「座って」

 ギュネが木製の椅子を指さす。

 フラマンタスは股間のモノがタオルから顔を出さ無いようにと用心しながら椅子に近づき座った。

「お湯掛けるわね」

「すみません」

 そしてギュネが言った。

「大きな背中ね。油の缶をたくさん背負えるのも頷けるけど、無理ばっかりしないでね」

 ギュネが言った。

「ありがとうございます」

 気の利いた答えは思い浮かばずフラマンタスはそう応じた。

 タオルで背中を擦られる。力加減は絶妙だった。

「痛い?」

「いいえ、素晴らしいです」

「何か変態っぽいんだけど。アンタがそうじゃないのは知ってるけどね」

 そして背中を洗われた。

「どうする、お湯に入るならあたし出てくけど?」

「いいえ、俺が出て行きます。ここは女湯ですし」

「まぁ、そうね」

 フラマンタスは立ち上がった。

「背中、ありがとうございました」

「う、ううん。良いのよ。少しでも役に立てたなら、あたしも嬉しい」

「では」

 フラマンタスは扉を閉め着替え部屋に出た。

 よく見れば、一着だけ他の籠の中に着替えが置いてあった。綺麗に折り畳まれている。それを見て、フラマンタスの中でギュネへの思いは募るばかりであった。そうして彼は荷物を取り男湯へと入った。

 湯気の立ち昇る湯船に浸かり、百まで数えて上がった。

 風に当たりたい気分だったが、生真面目な彼は警戒し鎧をまとった。また蒸してしまうな。

 フラマンタスはそう思いつつ、外へ出ると、目の前の光景に一瞬驚いた。

 灰色の大きな馬が見えた。そして騎乗者は黒い外套に身を包み頭も黒いベールで覆っていた。片手で巨剣を振り上げている。そこにはギュネがいた。短い槍を手にしているが、鎧は付けていない。桃色の半袖ワンピースだけであった。

「フラマンタス、どうやら敵みたいよ」

 ギュネが敵から目を離さずに言った。

「加勢します!」

 フラマンタスは声を上げて敵へ躍り出た。

 黒い騎乗者の一撃をフラマンタスは十字剣で受け止めた。相手は片腕だというのに凄い力だった。力自慢の自分を超える力に押される。そして驚いた。敵の腕は白いのだが、どう見ても骨であった。

「筋肉が存在しなくともこの膂力、お前の主は真紅の屍術師か!?」

 どうにか剣を弾き返して問うが、相手は声の代わりに「シュー」と見も凍るような低い鳴き声を発した。

「フラマンタス!」

 ギュネが背後で呼ぶ。

 隊長達に知らせに出て行って貰うべきか。いや、新手がどこに潜んでいるか分からない。

「ギュネさんは、下がってください! すぐにケリをつけます!」

 フラマンタスは十字剣を顔の前で構えて鍔越しに相手を睨んだ。

「シュー!」

 再び巨剣が振り下ろされた。

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