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フラマンタスの刃42

 姫の言う通り朝食も軽く終え、フラマンタスらは町の掃討に移った。

 若干ゾンビ達の動きは遅くなっている。体表にもカビのようなものが見えた。

 アネーリオ少年が跳躍し、跳び膝蹴りをぶつける。

 良い機会だからとマグナスが補助に入り、少年に戦い方を教えていた。というよりも、場慣れさせようと試みているようだった。少年の腕の筋肉もなかなかなものになってきたが、まだまだ大人には及ばない。ゾンビの首を骨ごと断ち斬るのは無理であった。

 マリアンヌ姫にはギュネが守りについている。真剣な彼女の顔もまたフラマンタスの心を刺激した。

 力を貰ったフラマンタスは勇躍し咆哮を上げて次々ゾンビを薙ぎ払った。幾重にも血の筋が飛び、首を失った身体は二、三歩進んで倒れる。

「何だ、フラちゃん、はりきってるね。ギュネっち! フラちゃんを応援してあげなよ!」

 コモドが声を掛けて来た。

「何でよ!?」

「んもう、照れ屋さんなんだから」

 と言いながら接近してきたゾンビをコモドはサッと近寄り剣を振るって首を落とした。そしてカウボーイハットのつばをあげてウインクする。

「もっともっとカッコつけようぜ、皆!」

「おうっ!」

 コモドが声を上げるとダニエルとアネーリオ少年が応じた。ヒューは不敵に笑い、マグナスが姫を盗み見ていたのをフラマンタスは見逃さなかった。

 ゾンビ達は続々やってくる。

 恐慌をきたせるような強い雄叫びは無いものの、気味の悪い耳障りのよくない虚ろな鳴き声を絞り出す。夢に見てしまいそうな声だ。

 だが、単調な退治とはいかず、驚かせられる時がある。突然民家の窓ガラスを破り出てくるものが良い例だ。あれは心臓には悪い。フラマンタスの様な鋼の心を持つ者でも一瞬、我を忘れるほどだ。

 今回は姫とダニエルが声を上げた。

 アネーリオ少年が勇敢に退治に向かい、マグナスも同道する。這い出てくるゾンビを前に少年の出番は無い。マグナスが素早く仕留めてしまうのだ。隊長はきっと戦いには慣れて欲しいが、元は人間、力量が足りずとどめを刺せない少年に、殺しを遊びのように捉えて欲しくは無いのであろう。幾度か、調子の出て来た少年をマグナスは諭していた。

 通りに溢れたゾンビをヒューが戟を旋回させて道を作る。この老人の加入は鉄壁の陣には必要なものだった。長柄の戟は正確に多くの首を飛ばし、戦場を一瞬だけ鎮める。フラマンタスの十字剣も長く、彼も同じように側で動いていた。

 一瞬、フラマンタスとヒューの目が合い、老人はニヤリと微笑んで見せた。まるで戦友にそうするかのようだった。

 そうして一帯にゾンビの気配が消えたのは夕暮れ時だった。

 近場の建物は銭湯と、並んだ民家だけだった。民家の一つをマリアンヌ姫とギュネの寝床とし、マグナスを中に残し、後は外で篝火を炊きながら寝た。だが、フラマンタスは見張り終えた後もなかなか眠れなかった。

 銭湯でギュネが入っている時に見張りに着いたのだが、コモドに散々、覗きに行かないのか誘われたことを思い出す。見つかれば信頼を落とす行為であり、大の男としてやってはいけないことだ。ヒューじいさんが更にフラマンタスの事情を悟り、ニヤリと笑みを向けて去って行った。



 2



 湯殿は気持ちよかった。マグナスとヒューじいさんが湧かしてくれた。

 フラマンタスは限られた時間を久々に一人きりで満喫していた。

 思えば遠くへ来たものだ。それに今は一人じゃない。あれほど孤高を好んだ自分はもういない。

 浴室の扉が開いた。

 鼻歌が聴こえてくる。途端にフラマンタスは驚いた。だが、驚く前に向こうも気付いたようだ。

「フラマンタス?」

「ギュネさんか!?」

 フラマンタスは泡を食い上がろうとしたが、鋭い声が飛んだ。

「出て来ないで!」

「え?」

「湯船から出ないでって言ってるの!」

 湯煙で向こうの姿は見えなかった。

「な、何故です?」

「だ、だって今立ち上がったら、あんたのアレが見えちゃうじゃないの!」

 その指摘に確かにと思った。

 相手が歩んで来る。姿が見えた。民家で手に入れた浴用タオルを身体に巻いている。だが、胸の大きな起伏は隠せない。

「ギュネさん!?」

 と、声を上げた途端、自分が眠りに落ちていたことに気付いた。

 見張りのダニエルとコモドが振り返り、ヒューとアネーリオ少年も目を覚ました。

「どうしたんです?」

 ダニエルが尋ねてきた。

「夢を見ていたようだ」

 フラマンタスはそう言い、夢の中での出来事を思い出す。もう少し頑張れば、ギュネさんと混浴できたかもしれない。そんなことを考えていた。

「ギュネっちがどうしたって?」

 コモドが忍び笑いを漏らして言った。

「何かあったの?」

 アネーリオ少年も尋ねてくる。

 フラマンタスは一瞬どう答えようか迷った。

「良い夢見てたんだろう。ほら、坊主、明日も早いぞ、寝ちまいな。若造どもも見張りの続きに戻れ、サボってんじゃねぇ」

 ヒューが助け舟を出してくれた。ヒューの言葉にアネーリオ少年は頷き、ダニエルとコモドも左右の篝火の脇にそれぞれ並んだ。

 ヒューは何も言わずそのまま民家の壁に背を預けて寝てしまった。

 フラマンタスは老戦士に恩を感じた。

 そんな夜も終わり、朝となる。

 マグナスが、マリアンヌ姫が、ギュネが家から出てくる。

「見張り番御苦労様でした」

 マリアンヌ姫が言い、ヒューが跪いた。この老戦士は姫の戦士として認められたことを新たな誇りに思い、無心に励んでいる。フラマンタスは昨晩の助け舟の礼を言うべきか逡巡したが、ギュネがこちらを向いて背筋を伸ばし、微笑みこそしなかったが、「おはよう、フラマンタス」と言ってくれたため、すっかり恩のことが頭から吹き飛んでいていた。

「おはようございます、ギュネさん」

 フラマンタスは笑顔で言えたか気になったが後の祭りだ。ギュネは小さく頷いた。

 軽食を済ませ、町の制圧に今日も励む。

 ゾンビ達がヨレヨレになりながら其処彼処から現れ、大通りに広がる。例によってヒューじいさんと先陣を切り、やや遅れたフラマンタスに声が掛けられた。

「頑張ってね」

 ギュネの声だった。それは先陣を切るヒューじいさんや他の面々も含めての言葉だったのかもしれない。しかし、フラマンタスの心には火が点き、ゾンビどもの虚ろな合唱を吹き飛ばす程の咆哮を上げて飛び込んで行ったのであった。

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