フラマンタスの刃40
予想はしていたが、辿り着いた町は酷い光景だった。
まだ新鮮なゾンビ達が闊歩し、虚ろな声を上げて大通りに広がっている。
マリアンヌ姫とアネーリオ少年、ギュネを後方にし、フラマンタスらは広がった。
マグナスが頷いて町へ一歩踏み出すや、そのレガースの底が地面に触れる音だけで、まるで罠でも仕掛けていたかのようにゾンビ達はこちらを向いた。
見える範囲で五十体、いや、それ以上いる。
それらがヨロリと振り返り、五体ほどがまだまだ新鮮な証拠でもある凶暴な雄叫びを上げて駆け襲い掛かって来た。
マグナスとフラマンタスが並び瞬く間に首を刎ねる。
五つの首が地面に落ち血染めの胴体の隣に転がった。
マグナスとフラマンタス、コモドにダニエル、回復したヒューがそれぞれゾンビ達と対峙した。
次々と生産される新たなる死。それを迎え入れるのは炎だった。マリアンヌ姫とギュネとアネーリオ少年が油を亡骸に注ぎ火を点けた。
「フラ兄ちゃん、あたらしい缶を頂戴!」
アネーリオ少年が駆けて来る。と、民家の右手側の扉が開き、男のゾンビがよろめきながら駆けて来た。
少年は小盾でその顔を殴りつける。深追いはせずにフラマンタスに後を任せてくれた。
「盾の使い方が上手くなったね」
「そうかな!」
少年はこの絶望一色に染まった町で明るく微笑み、新しい油の入った缶を受け取ると姫らに合流した。
「コモド殿、ダニエル、民家を調べてくれ。我々はしばらくここで交戦する」
マグナスが言った。
「あいさー」
コモドが駆けて戻って行き、遅れじとダニエルも続いた。
ゾンビ達は相変わらずわらわらといる。
「こんな中に俺はいたんだな」
ヒューがしみじみと言った。
無限に湧き出るかのようなかつての町民だったゾンビ達を、フラマンタス、マグナス、ヒューは、間隔を置いて薙ぎ払いで首を刎ねた。十字剣が、戟が更に血に濡れ、滴り落ちる。
死体の上に死体が重なり山となる。コモドとダニエルはまだ戻らない。
「あの小僧どもまだなのか? 誰か行った方が良いんじゃないか?」
ヒューも危惧していたように言った。
「では、フラマンタス、行って見て来てくれ」
「しかし、戦線は保てるのですか?」
マグナスの言葉にフラマンタスは問う。
すると笑顔を浮かべて緋色の長い癖っ毛を振りながらギュネが合流した。
「アンタの代わりはあたしがやってみせるわ」
その強い眼差しにフラマンタスは頷いた。
できればギュネさんは俺が守りたかった。
だが、今は惚れたことを自覚している場合ではない。帰りの遅いコモドとダニエルを迎えにフラマンタスは駆けた。
「お気を付けて!」
マリアンヌ姫が声を掛けてくれた。フラマンタスは背負っていた缶を二つ置いた。
「万が一の時はアネーリオ君、姫様を頼んだぞ」
「任せてよ」
そしてフラマンタスは急いで駆け戻った。
民家の戸が開け放たれていて、ゾンビ達がコモドとダニエルを追い詰めていた。
「二人とも! 助けに来たぞ!」
フラマンタスは駆けながら十字剣を横に大きく振りかぶり、二人を追い抜くや、全力で振るった。
ゾンビ達の首が五つ飛んだ。
「行くぞ、ダニーボーイ!」
「はいっ!」
コモドとダニエルも攻めに転じどうにか十数体のゾンビを討滅することに成功した。
三人は死体に油を注ぎ火を点けた。
「フラちゃん、グッドタイミング」
「助かりました」
二人はそう言った。
「どこに隠れてやがったのか、こいつらいきなり現れやがった」
コモドが言う。
「そうだったか。ついでだ、油の缶を補充して行こう。二人は組んで動いてくれ」
「りょーかい。行こうぜ、ダニーボーイ」
「はいっ!」
戦線も気になるが、油が圧倒的に不足していたのだ。トロルとも近場で遭遇したこともあり、念には念をと死体を置き去りにせず燃やすことをフラマンタスは優先させた。
それでも素早く空いた民家を周り、コモドらと合わせて二十缶ほど手に入れた。それを手伝ってもらい、自分の背にロープを回して括りつけて背負う。コモドとダニエルも両手に二缶ずつ持っていた。
「急ごう」
フラマンタスは駆けた。
前線は死体が山積みになっていた。この区域のゾンビ達はまばらになったようで、マグナスもギュネもヒューも武器を下ろし、遠くからこちらへ向かって来る空虚に唸りを上げる影を見ているようだった。
マリアンヌ姫とアネーリオ少年が山積みになった死体に油を十分に注いでるところでフラマンタスは合流した。
「遅くなりました。家屋に残っていたのでしょう、討ち漏らしたゾンビと交戦し、油を補充して参りました」
フラマンタスが言うとマグナスが頷いた。
「それでコモド殿とダニエルは?」
「は?」
フラマンタスは後ろを振り返った。燃え上がった死体の山の向こうに二人の姿は無かった。付いて来ていると思っていた。
「またゾンビが出たんじゃない? 今度はあたしが行くわ」
「いや、ギュネさん、危険過ぎる。私が」
フラマンタスがギュネのことを心から思いやって言った時、二人の姿が見えた。走ってはいるが速度が遅かった。
「様子が変だ」
フラマンタスは警戒した。
「そうりゃそうだろうよ」
ヒューが軽い口調で言った。
「そうだな」
マグナスも続いて頷く。
「フラマンタス、彼らは君ほど力があるわけでも無い。満タンの缶をあれだけ両手に持って駆け付けられる方が驚くべきことだよ」
マグナスがそう言い、フラマンタスは前線のことが気になり、つい夢中になって駆けていたことを思い知った。トロルとも渾名され、鍛えに鍛えた筋力と脚力は自分で言うのもなんだが規格外のものだったらしい。
「フラちゃん、酷いよ。助けに来たのかと思ったらさっさと帰っちゃって。そんなにギュネっちのことが心配だったの?」
コモドが言うとギュネが反発した。
「ちょっと、何でそこであたしの名前が出るのよ」
「え? だって、ねぇ?」
コモドがギュネに向かってニコリとしてフラマンタスを一瞥して言うと、ギュネは顔を真っ赤にした。
「皆さん、そのぐらいで。次が来ますよ」
ダニエルが言った。
ヨロヨロとした影が向かってきている。怨嗟の様な鳴き声が大きくなってきた。
「よし、再び陣形を組もう」
ほんの一時の休息の後、マグナスの言葉で、マリアンヌ姫とアネーリオ少年、ギュネを下がらせ、臨戦態勢に入ったのであった。




