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フラマンタスの刃39

 トロルとの戦いを終え、フラマンタス達は東方への旅を続けた。この先に何が待ち受けているのか、早々と分かる事態が起きた。

 街道に誰かが、うつ伏せに倒れている。

「油断しないように」

 マグナスはそう言い、コモドを引き連れ先行した。

 フラマンタスらはその場に残り、彼らの様子を眺めていた。

「ヒューじいさん!?」

 マグナスの驚く声が聴こえた。

 すると姫が駆け出した。フラマンタスらも続いた。

 白髪交じりの伸びた山羊ヒゲが青い顔で苦しそうにこちらを見上げていた。

「ゾンビに噛まれた。……既に身体が俺のものじゃ無い様な気分だ。……助けてくれ」

 ヒューは弱弱しくそう言った。

「今ワクチンを!」

 マリアンヌ姫がアタッシュケースを開こうとする。だが、マグナスの言葉によってその動きを止めた。

「確かにゾンビ化を防ぐ薬はここにある。だが、かつては建国に貢献したとはいえ、今は国を乱し仇名す賊に走った、あなたを助ける道はない」

 マグナスの珍しく冷たい言葉にフラマンタスもギュネ達も驚いていた。

 するとマリアンヌ姫がマグナスに歩み寄り、その頬をぶった。

 鋭い音がした。本気でぶったようだ。

「姫?」

 マグナスが毒気を抜かれたような顔で自分より小さな姫を見下ろした。

「マグナス、あなたらしくもない。怪我人が、それも死の底に瀕している方を助ける術があって、あなたは助けないのですか?」

 姫がピシャリと言い、マグナスは答えなかった。

「フラマンタスさん、念のため、その人を押さえていて下さい」

「ほら」

「は、はっ」

 マグナスと姫のやり取りに驚いたばかりの自分だったが、ギュネに小突かれフラマンタスは動いた。

 ヒューの首には噛み傷があり、血が固まっていた。襲われてからそれなりに時間は経っているのかもしれない。フラマンタスはうつ伏せのままヒューを押さえた。

 姫が緑色の液体に満たされた注射器を持ち、慣れた手つきでヒューの右腕に注射する。

「間に合うかは分かりませんが待ちましょう」

 マリアンヌ姫が言った。

 ヒューは呻くばかりだった。

「姫、先ほどは申し訳ありませんでした」

 マグナスが謝罪する。

「いいえ、あなたの言うことももっともでした。でも、私には見捨てる勇気が無かったのです。私の問題です。強権を発動させてあなたを殴ったこと、どうぞ許してください」

 マリアンヌ姫も謝ると、マグナスは自分が悪いと食い下がり、するとマリアンヌ姫が、いやいや自分が悪いのだと更に食い下がる。

「とりあえず、このじいさんの容態を見守ろうぜ。前にゾンビ化寸前までいった俺っちなら分かる。今、このじいさんの中で大きな戦いが起きているのをじいさん自身感じているはずだ。だろ、ダニーボーイ?」

「そうですね」

 コモドとダニエル。かつてワクチンの世話になった二人が言った。

 一時間ほどすると、ヒューが仰向けに転がり、息を喘がせ言った。

「この先は町だ。……ゾンビだらけだ。……百人以上は斬ったがまだまだいる」

「ヒューじいさん、良いから黙っていてくれ。余計な体力は使わない方が良い」

 マグナスが心から案ずるように言うが、ヒューはそれでも口を閉じなかった。

「若造、お前の言う通りだ。俺は今では国に仇名す逆賊。悪さもたくさんしてきた。だが、そんな俺を許して欲しいとは言えないが、姫様。あなたには本当に感謝している。もしも俺が俺を取り戻せたら、あなたに忠誠を誓おう」

 そう言うとヒューは、黒い眼帯をしてない右の目を閉じた。

「神様、お慈悲を」

 マリアンヌ姫が跪き祈りを捧げる。

 アネーリオ少年も隣で真似をした。

 そのまま三時間ほど待つと、ヒューが再び目を開いた。濁ってはいない。

「立てるか?」

 マグナスが尋ねる。

「おそらくはな」

 ヒューの顔の色は健康な時に戻っていた。そしてマリアンヌ姫に忠誠を誓った戦士は座り込んだ。

「だいぶ楽になった」

「良かったです。もう心配は要りません」

 姫が慈悲深く微笑み言った。

「俺は奴を見た」

 ヒューが口を開いた。

「誰を?」

 マグナスが尋ねる。

「真紅の屍術師だ」

 その言葉を聴いた途端にフラマンタスはいてもたってもいられない心境になった。だが、と、思う。もう奴は姿を消したでろう。新しいパーティー会場を用意するだけ用意して消えてしまっただろう。

「町に入るんでしょう?」

 ギュネが尋ねる。

「我々は教会戦士でもありますからね。哀れなゾンビを眠りに就かせるという使命があります」

 マグナスが言い、フラマンタスも頷いた。

 ヒューは呼吸を整え、立ち上がった。

「まだ無理はしない方が」

 姫が言うがヒューはかぶりを振った。

「俺はあなたの戦士だ。あなたが向かわれるなら姫、何処へでもお供します」

 ヒューは丁寧な口調で言った。

 そして一同から距離を離したところまで歩むと、得物の戟を振るった。旋回、斬り、薙ぎ払い。見事なものだとフラマンタスは感心した。

「身体も本調子のようだ」

 ヒューは噛み締める様に言った。

「では、戦士ヒュー、あなたを私の忠実な配下と認め、我々に同行することを許します。贖罪は働きで返していただきましょう」

 マリアンヌ姫が言うとヒューは跪き頷いた。

「ははっ、姫様の仰せのままに。この老骨を使ってください」

 こうしてヒューが加入した。一同にとって、フラマンタスにとっては心強いが、仲間が増えるということは真紅の屍術師の選択肢も増えるということだ。

 奴は言った。仲間達を失わせ、フラマンタスを復讐に駆らせると。今のところ、仲間は犠牲になってはいない。コモドもダニエルも噛まれたが、今は元気だ。

「マグナス」

 姫が言った。

「ええ。では、町へ乗り込む。各自油断するな」

 こうしてフラマンタス達は新たな戦場へと赴いたのであった。

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