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フラマンタスの刃32

 猛牛の里や町の中の道具屋から一同はたくさんの保存食を持ち出した。それぞれが革製の背嚢にそれらを詰める。他にはカンテラは三つとその燃料兼ゾンビ火葬用の油の缶をフラマンタスらはそれぞれ背負っていた。マリアンヌ姫も例外ではなかった。

 何故、こんなことになったかといえば、フラマンタスが人里を避けて進もうと提案したためである。彼は昨夜懺悔をしながらも、やはり自分のせいで行く先々で多くの人々が犠牲になることに耐えられなかった。

 朝食の席で打ち明けた結果、ならば試してみようということになった。仲間達もわざわざ罪のない人々を真紅の屍術師の良いようにアンデッド化させられることには懸念を示していた。

 森の中の先導役は、今、上空を円を描くように飛んでいる鳥、姫の友達「クリス君」だ。

 彼に任せ、マグナスを先頭に最後をフラマンタスとして街道脇の森へと入った。

 木々を掻き分け先へ先へと進もうとするが、枝葉が視界を遮り、クリス君の姿が見えなくなる。

 すると、賢いこの鳥はすぐに察知し、下へ降りてきてマリアンヌ姫の手に乗って、鳴いて導くのだった。

 道無き道を行き、丘を登る。マリアンヌ姫とギュネ、アネーリオ少年はそれでも頑張ってついてくる。

 ようやく丘を登り切った頃には木々の隙間から夕暮れが見えた。

 別段、開けた場所でもない。だが、クリス君が鳥である以上、また皆も限界だったため、藪の上に腰を下ろし一行はそこで夜を明かすこととした。

 夕闇の中、草藪を切り払い、寝床を確保する。暖かいため火を起こす必要はなかった。

 問題は水だが、どこか川があればとフラマンタスは思う。マグナスらも同じ思いだろう。そう、暖かいため山登りには汗を掻く。持ち合せた水が減って行くのは仕方が無いことだ。逆に脱水症状になっては命の危険が迫る。

「このまま迂回して東の地へ赴きましょう」

 マリアンヌ姫が明るい声で言った。

 不意にクリス君が顔を上げた。

「どうしたの、クリスく」

 姫が言い終わる前に下の方から恨みがましいような物悲しい虚ろな鳴き声が聴こえ始めた。

「ゾンビがどうしてここに!?」

 ギュネが言うと、姫は応じた。

「以前の沢での戦いのように真紅の屍術師はやはりアンデッドを使役し自在に動かせるようです。マグナス」

「ええ、姫。夜の戦いは不利です。皆、御苦労だが、朝まで歩くぞ」

 マグナスの声が終わるとダニエルが尋ねた。

「歩くと言ってもどこに?」

「それは」

 マグナスにも分からない。クリス君だけが頼りだが、鳥だ。夜は視界が利かない。

「とにかく歩こう。隊長さんの勘に任せる。俺っちとフラちゃんでしんがりを務める」

 その頃にはフラマンタスとアネーリオ少年はカンテラに火を灯していた。敵にも見つかりやすいが、仲間とはぐれるわけにもいかない。目印だ。

 ダニエルが持ち、マグナスと共に先に歩き始める。アネーリオ少年もカンテラを持ち、姫とギュネと共に行く。三つ目のカンテラはコモドが持った。

 ゾンビ達の声が迫る中、夜を徹しての逃避行が始まった。



 2



 真紅の屍術師を呪った。

 マリアンヌ姫が限界となりアネーリオ少年が彼女の荷物を持ち、ギュネが姫を負ぶった。

「すみません、ギュネさん」

「気にしないで。ガキンチョ、あんたは平気?」

「うん」

 アネーリオ少年が溌溂とした声を上げた。

「若いねぇ、良いぞ、少年。そうやってマリちーとギュネっちを守ってやりな」

 ゾンビは駆けては来なかったようだ。だが、静かな森の中はもはや安全地帯があるのかすら分からない。今、どの辺りか。それも分からない。月明かりも届かなかった。

 全ては奴の手の中だ。

 束の間、一同は休息し、再び陣列で歩き始める。

 夜通し歩き回り、気付けば一行は川沿いに歩いていた。水面は陽光を照らし返していた。

 先の方は丘となっており滝が流れていた。

 姫の肩にいたクリス君が飛んで先行した。

「皆、あの丘を越えよう。行けるか?」

 マグナスの問いに全員が頷く。ギュネの背で姫も続いた。

「ダニエル?」

「行けます、マグナス隊長」

 強がっては見たもののフラマンタスにはダニエルがそろそろ限界だということが分かった。

 一行は丘を上がる。急斜面で容赦なく体力を奪い取って来る。そしてとうとうダニエルが倒れた。

「ダニエル」

 フラマンタスは彼に肩を貸した。

「すみません、日頃の鍛えが足りなかったです」

「良いんだ。君は良くやった。マリアンヌ姫も」

 フラマンタスは彼を抱え上げ、歩き出す。背中には二人分の背嚢と油の缶があるため背負うことはできなかった。

 そうして丘を上がる。隣を滝が流れている。

「ここで休息としよう。皆、良くやった」

 マグナスが労いの声をかける。

 だが、聴こえた。虚ろな声が。地獄の底から戻って来たような亡者の合唱が。

 斜面の下に奴らがいた。そして、コモドが滝を見て仰天した。

「奴ら、滝の裏側にもいるぞ」

 コモドの言う通り、滝の中を通る道にゾンビ達が群れを成してこちらに歩んでくるのが見えた。

「あるいは、これまでか」

 マグナスが言ったが、彼は己の弱気を払うかのようにかぶりを振り声を上げた。

「ここを戦場とする! 姫の守りはダニエルに任せる! アネーリオ君、ギュネ殿、戦えるか?」

「戦えます、隊長!」

「あたしもよ」

 二人は強気の笑みを浮かべて微笑みあっていた。

 コモドが長剣を抜いた。

 滝の裏側のゾンビ達が距離を詰めて来ている。

 そしてもう一方では斜面を奴らが登って来ている。

「隊長さん、俺っちとアンタで滝の奴らをやっちまおう!」

「分かった、コモド殿!」

「フラちゃんと、少年と、ギュネっちは斜面のを頼む」

 戦力としてそれが最善の割り振りだ。

「分かった、行こう、アネーリオ君、ギュネさん」

 フラマンタスは十字剣を抜いて斜面を降り始めた。

 真紅の屍術師め。どうあっても人々を犠牲にしたいようだな。

 フラマンタスはゾンビ達を哀れに思いつつも、背後に潜む黒幕に対して怒りを燃やしたのだった。

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