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フラマンタスの刃31

 夕食の前に銭湯に行く。

 湯はあらかじめ、マグナスとコモドが準備していた。

「ええ!? ちょっと、そのガキンチョも一緒なの!?」

 ギュネが女湯の前で声を上げた。

「お姉ちゃんを守るんだ!」

 アネーリオ少年が言う。

「あんた、歳は?」

「十三」

「無理! もう、立派な発情期突入じゃないの! マリアンヌ、あんたも黙ってないで何とか言いなさいよ!?」

 ギュネが急き立てると姫は驚いたように言った。

「アネーリオ君はそんなことしませんよ」

「だけど、アンタ、あれ見るの平気なの?」

「あれって、何ですか?」

 マリアンヌ姫が首を傾げる。

「分かった、ではギュネさんにマリアンヌ姫を任せよう。アネーリオ君は我々の方だ」

 見かねたマグナスが提案しギュネは何度も頷いた。

「姫?」

 ギュネが呟くのをフラマンタスは聴いたが今は何も答えなかった。

 マグナスとダニエルとアネーリオ少年が先に入浴し、フラマンタスはコモドと建物の外でカンテラを手にしつつ番をしていた。

 人の失せた静かな夜に、銭湯からの声はよく聴こえた。

「マリアンヌお姉ちゃん! ギュネにいじめられてない!?」

「大丈夫よ、アネーリオ君。ギュネさんは良い人だから」

 という具合にアネーリオ少年とマリアンヌ姫が何度も声を上げている。

「やっぱり女性が増えるのは良いことだね。雰囲気が明るくなる」

 コモドがしみじみと言った。

「そうだな」

 フラマンタスは頷いた。

「ギュネっちのことどう見てる?」

「どう?」

「そうよん」

「死者に祈りを捧げていた優しい人だとも思うし、この極限の地を生き抜いたサバイバーだ。勇敢で心強いと思う」

「なるほどね、それがフラちゃんの感想か」

 コモドはクックと笑った。

「何だ? 何かあるのか?」

「そのうち気付くんでない? そうじゃなきゃ面白くないや」

 コモドが言った。

 マグナスとダニエルとアネーリオ少年が出て来た。こちらを気遣ったらしい、出るのが早かった。

「待たせたな、二人とも。姫様達の方は大丈夫そうだ」

「そりゃあ、あれだけ呼び掛けてたらねぇ、少年」

 コモドはアネーリオ少年の肩をバシリと叩いた。

「何、コモ兄ちゃん?」

「いんや、少年、離れてもナイトしてたんだなと思って偉いぞ」

「だけど、マリアンヌお姉ちゃん達、まだ来ないよ。誰か見に行った方が良いんじゃない? ギュネにいじめられてるかも! 隊長!」

 アネーリオ少年は心から慌てふためく様子で訴えた。

「困ったな。そんなにギュネさんが信じられないかい?」

「うん!」

「即答なんだね」

 ダニエルが驚き呆れたように言った。

「誰が信じられないのよ?」

 見れば、ギュネとマリアンヌ姫が入り口から出て来たところであった。

「マリアンヌお姉ちゃん、大丈夫だった!?」

 アネーリオ少年が駆けつける。

「失礼ね」

 ギュネが言った。姫は少年の頭を撫でてギュネが良い人なのだと説得している。

「隊長さん、俺っち達もパパッと行ってきますわ」

 コモドが言いフラマンタスも頷いた。

「急かせるようで悪いな」

 そうして夏が近いとはいえ女性陣を湯冷めさせぬようにコモドの宣言通り二人の風呂はあっという間に終わった。

 その後、猛牛の里でマグナスの料理を味わった。

 そうして外に出る。

 静寂をささやかに乱すのは死者の呪いの声ではなく、虫とフクロウの鳴き声だった。

 そんな寂しい通りを行き、宿に入る。

 コモドと共に入り口の内側で見張りに付き、仲間達が部屋へ移るのを見て行く。だが、フラマンタスはもしかしたらと予想していたのだが的中した。

「お姉ちゃんを守るんだ!」

「何よ、アンタ、ガキだけど、男でしょう? マリアンヌのナイトなら女のあたしが引き受けるわ。悪いこと言わないからこれを機会に早くお姉ちゃん離れしなさい」

 ギュネは諭すように言った。

「どう思う、フラちゃん?」

「一国の姫だからな。ギュネ殿は信用できると俺は思うが、アネーリオ君が納得いかないだろう」

「まぁ、突然お役御免になりました、じゃ、少年も納得しないよね」

 全員の視線がマグナスを見ていた。フラマンタスもここは隊長の指示を仰ぐこととした。

 マグナスは困ったように喉を唸らせるだけだった。

「アネーリオ君、だったらお姉ちゃんと同じベッドで寝よっか?」

 マリアンヌ姫の提案にギュネの声だけが響いた。

「あのねぇ、あんたもその子、可愛いクマさんの人形だとでも思ってるの? 発情期よ、発情期!」

「ギュネさん、実はこちらの方は」

 マグナスが神妙な顔で言った。

 再びギュネの驚きの声が木霊する。

「ひ、姫? あんた、お姫様だったの!?」

「はい、一応はですが」

「だから、俺が守るんだ!」

 アネーリオ少年が言い切ると、ギュネは盛大に溜息を吐いた。

「分かったわよ。あたしのことまだ信用できてないものね。だけど、一緒の部屋で寝かせてもらうわよ」

「何で?」

 アネーリオ少年が問う。

「そ、そりゃ」

「ゾンビが出ないとも限らん。ギュネ殿にも姫の護衛をお任せしたい」

 マグナスが言った。

「それで構いません、マグナス。それではおやすみなさい」

 マリアンヌ姫とアネーリオ少年が部屋に入る。ギュネが続こうとしたところで扉が半分閉じられ、ギュネは顔をぶつけたようだ。

「こぉの、ガキンチョ!」

 ギュネが部屋に入る。扉が開いているため、二人の口論が続いたが、姫が仲裁したようだ。

「これから賑やかになりそうだな。ではな、フラマンタス、コモド」

「はっ、隊長」

「ではよろしくお願いします」

 ダニエルが続いて部屋に入って行く。

 途端に静寂が戻った。

「じゃんけんぽん!」

 コモドが勝った。

「よっしゃ、俺っち先に寝る方ね」

「分かった」

 コモドはカウボーイハットを顔に伏せ、壁に身を預けて眠り始めた。

 フラマンタスはたった一人暗闇に残された気分だった。だが、ギュネが加わり旅は少しは楽になるだろう。

 罪悪感を感じる。これから歩けば歩くほど、近づけば近づくほど、住まう人々はアンデットになってしまう。

 俺にできることは真紅の屍術師の居る場所まで辿り着いて奴を斬ることだけだ。

 フラマンタスはそれでも今から先に犠牲なった者、これから犠牲になる者達に懺悔の祈りを小声で捧げていたのであった。

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