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フラマンタスの刃30

 カラス対策は間に合わなかった。朝六時にもなればカラス達があちこちで鳴き声を上げて、腐敗した死体を啄んでいる場面に出くわす。

「ギュネさんは家屋に隠れていた方が良いです」

 フラマンタスが言うと彼女は応じた。

「カラスが怖いの? 訳がありそうね」

 良かった、責任感が強いばかりか聡明な方だ。

「ゾンビの死体を食らったトロルが突然変異を起こした例があります。カラスも影響を受けるかもしれません」

 ギュネは黒いワンピースを着、黒いスカートを履いている。カラスとイメージがかぶりフラマンタスは慌てて内心でかぶりを振った。そんな中で緋色の髪は映えていた。

「何?」

「私が先行しますので、こちらのコモドと待っていて下さい」

 フラマンタスは缶を置くと十字剣を抜いた。

 そうして遺体に集まるカラス目指して歩みを進めた。

 カラスは賢く人慣れしているものだが、最終的には道を譲るものだ。こいつらはどうだろうか。攻撃的になってはいないだろうか。

 カラスは鳴き声を上げて飛び去った。

 フラマンタスは剣を収めた。

 缶を持ってコモドとギュネが追い付いてきた。

「まだカラスはカラスのままだが」

「もしもカラスで影響が出るなら、今までに方々で被害が出ていてもおかしくないんじゃないん?」

 コモドが言うが確かにその通りだった。フラマンタスは安全だと決めた。

 油を注ぎ火を着ける。

「安らかに」

 ギュネが祈っていた。

 優しい人だ。

 フラマンタスはそう思った。

 ゾンビの少なかった町の内部での作業が終わった。十三時を回っていた。教会戦士に配布される銀色の懐中時計を彼は見ていた。

 その頃になって街道の方も作業を終えたマグナスらが帰還してきた。

 猛牛の里に寄り、コモドとダニエルが料理を始める。

「ギュネ殿、申し訳ないが、西側方面の村や町は無人のはずだ。女性を一人で行かせるなんてとんでもないこととは思いますが、我々といるよりは安全なはずです。王都まで行って教会戦士団の本部を頼ってください。あなたの暮らしは保証されます」

 マグナスが言うと、ギュネは応じた。

「あんた達はどうするの? その真紅の屍術師をやっつけに行くわけ?」

「ええ、そうなります」

 マグナスが答える。ふと、ギュネの目がフラマンタスをチラリと見た。

「あたしもあんた達に付いて行くと言ったら?」

「ギュネさん、それはお勧めできません」

「何で?」

 ギュネがずいと顔を突き出しマグナスを見た。

「真紅の屍術師の狙いが私だからです」

 フラマンタスは吐露するしかなかった。ギュネは、彼女はその犠牲者だ。ここで腐って死んでいった者達と同じく、フラマンタスが足を向けなければ孤独になどなる必要はなかった。

「どういうこと?」

「遊んでるんだよ」

 コモドがフライパンを手際よく返しながら言った。

「真紅の屍術師はフラちゃんを脅して遊んでるのさ。フラちゃんが行く先々でこういうことが起きる様にしているんだよ」

 ギュネがこちらを見た。批難されるのを覚悟したが、ギュネはまず大きく息を吐いた。

「何て陰湿な奴」

 彼女はそう言いフラマンタスを一瞥しマグナスを見た。彼女もまたマグナスがリーダーだと気付いたのだろう。

「決めた。あたしもついて行く。あたし、そういう陰湿な奴が大嫌いでね、町の人達もそいつに殺されたなら、仇を討ちたい。あたしの占いはインチキだけど、この町の人達は受け入れてくれた」

 するとマリアンヌ姫が言った。

「渦中に身を置いたギュネさんなら分かると思いますが、たくさんのゾンビを相手にしますよ。御自分の身は守れますか?」

 するとギュネは鼻を鳴らし立ち上がって、短い槍を連続で三回空を突いた。力強い連撃だった。

「腕には自信はあるわよ。実戦で使い物にならなかったら、隊長さんの意見に従って王都に行く。だけど、それまでは着いて行くわ」

 マグナスは困ったように姫を見た。

「分かりました、ギュネさん。でしたら後で武器と防具のお店で装備の方を準備しましょう」

 マリアンヌ姫はそう言ったが、彼女もまた一般人を巻き込むことに複雑な心境のようだった。

 コモドとダニエルの料理がカウンターに並べられ一同は遅い朝食と共に昼食を取った。

 それから全員で武器と防具の店まで歩いた。

 ギュネの装備をマリアンヌ姫が見立てている。

「ゾンビの攻撃から身をかわしやすい装備をお勧めします。私と同じ革の鎧なんてどうでしょうか?」

 フラマンタスはマグナス、コモド、ダニエルと共に剣を磨いて研いでいた。アネーリオ少年は一人、物珍しそうに品物を手にしたり眺めている。

「出来ましたよ」

 マリアンヌ姫の声がし、彼女に続いてギュネが姿を見せた。

 鉄の胸当てで上半身を固めていた。革のブーツを履き腰には短剣が幾本かあるが、それが投擲用だとフラマンタスは気付いた。正直心強かった。そのギュネがフラマンタスに視線を向けた。

「どうですか、フラマンタスさん」

 姫が尋ねて来た。

「申し分無いです」

 フラマンタスは正直に応じた。 

 するとギュネは頬を赤くして言った。

「さ、さぁ、出発よ!」

「ギュネさん、今日はもう一夜ここで夜を明かします」

 マグナスが言った。

「ああ、そうなんだ。それと別に敬語は使わなくて良いからね」

「そうなんだ。じゃ、これからギュネっちね!」

 コモドがさっそく言うとダニエルが苦笑いしていた。

「何よ、その呼び方は?」

「だって敬語じゃなくて良いんでしょ? ギュネっち?」

「……まぁ、良いわ。それで、あんた達の方の自己紹介は? あたし、マリアンヌしか知らないんだけど」

 ギュネはそう言った。

 そこで一行は一人ずつ自己紹介を始めた。

 マグナスが言い、再度マリアンヌ姫が、コモドが、ダニエルが。マリアンヌ姫は自分が姫であることを伏せていた。そうしてフラマンタスの番になった。

「教会戦士団所属のフラマンタスです。よろしく、ギュネさん」

 フラマンタスは少し緊張したが、ギュネを真っすぐ見詰めてそう言った。

 ギュネは小さく頷いた。

「よろしく」

 こうしてギュネが試用期間という位置づけで一行に加わった。

 フラマンタスとしては、戦力にもなり得る存在であることと、同性のマリアンヌ姫に良い友達ができそうな気配に喜びを感じていた。

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