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フラマンタスの刃28

 フラマンタスの十字剣が薙ぎ払われる度に、虚ろに鳴いていたゾンビ達の首が飛ぶ。粘り気のある体液が刃に付着するが、切れ味は衰えない。教会戦士本部の地下で研究員と鍛冶師達が考案した特殊な剣だとは聴いている。ゾンビ達の腐敗の速度は速かった。肉はもうネバネバし、糸を引いていた。

 それにしてもと、フラマンタスは思った。隣で十字曲剣を振るう隊長の加入はありがたい限りだった。いつの間にか、自分の身の置き所として彼を頼っているところがあることに気付いた。それではいけない。もしもマグナス隊長が倒れでもしたら、仲間達は混乱をきたしてしまう。フラマンタスは咆哮を上げて剣を振るい続けた。俺の旅だ。俺がしっかりしなければ!

 正午頃にゾンビの第二陣はまばらになり、それを過ぎると現れなくなった。

「どうするよ? 昨日に続いてかなりの数をやったとは思うけど、町入る?」

 コモドが尋ねた。

 皆、息も絶え絶えだった。フラマンタスも剣の血糊を拭き取り、マグナスを見た。そこで気付く、これでは駄目だ。やはり自然にマグナス隊長に頼りきりだ。狙われてるのは俺なのだ。俺が先頭を切らなければ。彼は思案し言った。

「この死体達を燃やすのに油が必要です。先の村に戻っていては距離が長過ぎます。町にもゾンビはいるとは思いますが、腐敗も続き、走ることもできず、さほど脅威にはならないでしょう。我々なら制圧できると、いや、できます」

 フラマンタスは言い切った。その上で他の意見やマグナスの反応を待つ。

「確かに奴ら腐りに腐りきっていたな。マリちーの鉄拳とか少年の飛び膝でもやれるんじゃねぇの? 脳味噌もグズグズだろうし」

 コモドが述べる。

 アネーリオ少年が意気込みを見せる以外は意見は無かった。

「分かった、町へ進もう。姫も良いですか?」

「ええ、異論はありません」

 マグナスが問うとマリアンヌ姫が言い、一同は揃って出立した。



 2



 町の左右の鉄製の門扉は開け放たれ、強風に煽られ、キイキイ、と気味の悪い音を上げている。風が運んでくるのはそれだけではない。腐臭に、手近にいるゾンビの鳴き声だ。

 フラマンタス、マグナス、コモド、ダニエルは通りに横一列に並び、マリアンヌ姫とアネーリオ少年が後に続く。

 ゾンビがよろりとふりかえり、覚束ない足取りで歩んで来る。白く濁っている眼球がこちらを向いた。

 ダニエルがサーベルを振るってゾンビを迎え撃つ。首を一直線に貫きそこで刃を薙ぐ。腐った血がバッと広がりゾンビは倒れた。

「こんな感じでしょうか?」

 ダニエルが問う。

「へぇ、すっかり慣れたもんだね」

 コモドがダニエルを讃える。

 町には僅かなゾンビが残っていた。墓地にも最近眠っていた者が這い出て来たような痕跡があった。もっとも、もう殺してしまったかもしれないが。

 あまり大きな町では無かった。フラマンタスらは通りを歩きながら屋内の捜査も続けた。だが、ゾンビは見当たらなかった。

 油を得るのは後にした。まずは町全体の安全確保が第一だ。

 風の吹き荒れる静かな町には物言わぬ死体しかない。そう結論付けて、一同は大手居酒屋チェーン店猛牛の里へ入る。

 そこでマグナスが料理をする。外と街道の死体は明日、皆で揃って油を持って始末することに決めた。

「ん? あ、ゾンビだ!」

 アネーリオ少年が声を上げ、空気が変わる。

 見ると、窓から女のゾンビがこちらを覗いていた。だが、サッと身を隠した。

「ゾンビ、ではないな」

 フラマンタスが言うとコモドが扉を開けた。

「いらっしゃい、子猫ちゃん」

「誰が子猫よ! なめんな!」

 若い女の声がする。

 コモドの後に続いてきたのは緋色の長い癖毛が眩しい長髪の女性だった。年齢は二十から二十三ぐらいだとフラマンタスは思った。

「この町の方ですか?」

 マリアンヌ姫が問うと、相手は盛大な溜息を吐いた。

「お腹が空いたから何でも良いから食べさせて。話はそれから」

 女は言った。

「私はマリアンヌと申します。せめてお名前でも教えていただけませんか?」

「ギュネよ。ああ、あんた達が来てくれて本当に助かった。それだけは礼を言うわ」

 ギュネはそう言い、マグナスの方を見る。その目が食事はまだかと催促していた。よく無事でいられたものだ。真紅の屍術師の邪術は……。

 不意にフラマンタスは立ち上がり尋ねた。

「失礼ですが、オニキスを身に着けておられますか?」

 その問いにギュネは面倒そうに首から下げているオニキスのタリスマンを見せた。

「これは王国支給の物では無いですね」 

 マリアンヌ姫が言った。

「あたしの師匠の形見よ。占いに使うんだけどね。それが何よ?」

 フラマンタス達の驚きの目に囲まれギュネは少々焦ったように見回した。

「その首飾り、決して肌身離さず持っていて下さいね」

 マリアンヌ姫が言い、上品に微笑むとギュネは合点がいかないような顔だったが頷いた。

 程なくしてマグナスの野菜スープができた。

 ギュネと呼ばれた女性はよほど飢えていたらしく、アネーリオ少年とおかわりの争奪戦を繰り広げていた。

「たまには酒でも飲みたいな」

 コモドが言った。

「駄目ですよ、何が起きるか分かりません」

「だな」

 ダニエルがたしなめ、コモドが応じる。

 飢えが満たされたのか、ようやくギュネは話した。

 突然、人々が倒れ、起きた瞬間にゾンビ化したことを。最初は凶暴で追い回されたが、屋根の上でやり過ごしていたことを。自分が占い師であることも明かした。

 一方のフラマンタス達は何を話せば良いのか分からず、王国から来た先遣隊だとだけ話した。

「何か隠してるでしょう?」

 ギュネは鋭く指摘しダニエルへ詰め寄った。

「ええっと」

 ダニエルは困ったように助けを求める。

「分かりました。お話しましょう」

 マリアンヌ姫が言った。

 そこから真紅の屍術師の話になった。狙いがフラマンタスであることをマリアンヌ姫は口にしなかった。おそらくは、ここでこのギュネという女性と別れるだろうと思っているからだ。

「要するにその真紅の屍術師って奴が元凶で、オニキスが奴の邪悪なゾンビ化の術を跳ね返すわけね」

 ギュネは言った。フラマンタスは彼女が側に立て掛けている短い槍に目がいった。戦えはするのだろうか。旅には彼女は連れては行けない。ここから王都まで一人で行かなければならないだろう。一人で平気かが気になった。

 猛牛の里から出ると今度は宿に行く。主も客もいない宿は少しだけ気味が悪かった。手分けして蝋燭に火を灯す。

「ギュネ殿は一人で平気ですか?」

 マグナスが尋ねた。とは言っても、まだまだ正体は分からない女性だ。悪人かもしれない。同性だからと言って姫と一緒の部屋にはさせたくないという隊長の本音が、フラマンタスにも聴こえた。

「平気よ。じゃあね、お休み! はぁ、久々のベッド!」

 ギュネは二階へ上がって行ってしまった。

 仲間達は向かい合う。

「隊長とフラちゃんは休んで良いよ。見張りなら俺っちとダニーボーイでする」

「ええ。勿論、何かあったら起こしますが」

 マグナスは二人の心意気を組んだのか、あるいは既に力量を認めているのか頷いて承認した。

 マリアンヌ姫とアネーリオ少年が同じ部屋に入り、フラマンタスはマグナス隊長と部屋を共にした。

 階下のコモドとダニエルの様子を振り返り、フラマンタスは部屋に入る。

 マグナスが鎧を外し始めていた。

「このベッドではお前の足がずいぶんはみ出てしまうな」

 マグナスが笑って言った。

「ええ、ですから」

 フラマンタスは鎧を脱ぐと椅子を持ってきてベッドから離れたところに置いた。

「こうやって足を置くんです。毛布も二枚使います」

「なるほど。さて、お互い久々に朝まで眠れそうだな。英気を養い明日への糧としよう」

「はい」

 マグナスはベッドに横になり、フラマンタスも自分のベッドに身を置いた。

 蝋燭の灯りをマグナスが消す。そこは闇となった。もしや、亡者の呻きが聴こえやしないか、フラマンタスは自然と耳を澄ませている自分に気付いた。マグナスはもう寝入っている。フラマンタスも下の二人に後を任せ目を閉じたのであった。

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