フラマンタスの刃27
討ち漏らしはいなかったが、死体の数が多すぎて油が足り無くなった。
仕方なくフラマンタスとマグナス隊長は先の無人の村へと戻り、再び油を補給して戻った。その際、村の看板にマグナスが羊皮紙を貼り付けた。「ゾンビ発生により、これより東に行けるのは教会戦士団のみとする」と、書き記した。
この紙にどれほどの効力があるのかは知らないが、犠牲者は出したくなかった。
二人は松明を点け、残りの死体を燃やして始末して行った。
予想よりも遅くなり、気付けば夜明けだった。
「いかん、姫様達のところへ戻らなければ!」
マグナスが声を上げ、フラマンタスも頷いた。ゾンビの第二波が来るかもしれない。二人は先を急いだのだった。
2
夜明けと共にゾンビ達は襲来した。コモドとダニエルだけでは相手にしきれない。このままやり過ごそうとしたが、ゾンビは嗅覚が鋭いのか、こちらの隠れている茂みへと足を変えた。
「マリちーと、少年はそこにいて! 行くぞ、ダニーボーイ!」
「はい!」
コモドとダニエルが飛び出すが、ゾンビは圧倒的な数だった。
マリアンヌ姫はワクチンの入ったアタッシュケースを左手に提げ、右手にセスタスを嵌めた。
「アネーリオ君はここで待っていて」
「嫌だ、俺も行くよ! マグナス隊長たちと約束したんだ、お姉ちゃんを守るって!」
押し問答をしている暇も、優しく諭し納得させる暇も無かった。コモドの焦る声が聴こえて来たからだ。
「分かった、でも、気を付けてね。行こう!」
マリアンヌ姫とアネーリオ少年は飛び出した。
街道は無数のゾンビの列ができていた。列と言うほど整ってはいないが凄い数だ。
コモドと、ダニエルが武器を大きく薙ぎ払い牽制し、時折敵の腕を断ち、首を刎ねるが、ゾンビは減る様子が無い。
マリアンヌ姫はダニエルの隣に踏み込んで、ゾンビの顔面に右の拳を食らわせた。
「やあっ!」
ゾンビの顔が不自然に曲がる。
倒れたゾンビはまだ動く。マリアンヌ姫はアタッシュケースが邪魔で動けなかった。代わりにとどめを刺したのは。
「こいつっ!」
アネーリオ少年だった。首に十字短剣を突き刺し、分断する。新手はダニエルが相手になった。
「二人とも戦ってくれんの!?」
コモドの声がする。
「はい、猫の手も借りたいほどだと思いますから、加勢します! ね、アネーリオ君?」
「うん!」
マリアンヌ姫は次々ゾンビの顔面を殴り飛ばし続けた。手を覆う鋼鉄の拳越しにゾンビの歯と頬骨が折れるのを聴いた。このまま脳味噌まで破裂してしまえば良いのに。と、マリアンヌ姫は自分の非力を嘆いたが、本当に嘆いている暇はない。アネーリオ少年も膝のプロテクターを活かし、必殺の飛び膝蹴りをゾンビに放っている。
アタッシュケースを放してしまいたい。もっと自由に戦いたい。しかし、これは非常に重要な物だ。放すわけにはいかない。
蹴りを放ち、顔面を殴打し、屈んだところをかかと落としを脳天から決めるが、ゾンビの頭蓋骨は割れなかった。マリアンヌ姫とアネーリオ少年がやれることはここまでだった。
戦線は後退している。コモドが指揮を取り、状況を見ながら声を上げる。
ゾンビ達はカビの生えた腕で掴みかかって来る。
すると、アネーリオ少年が悲鳴を上げた。
「うわあっ!?」
ゾンビが彼の肩を掴み、大口を開いて首筋に噛み付こうとする。
「危ないっ!」
マリアンヌ姫は素早く腰を落としゾンビの顎に必殺のアッパーカットを食らわせた。教会戦士見習いとして体術だけは学んでいた。剣はまだだが。その中でこの一撃をマリアンヌ姫は誇りに思っていた。見れば、ゾンビは仰け反り、倒れた。
「ありがとう、マリアンヌお姉ちゃん! お姉ちゃんはやっぱりカッコイイ!」
アネーリオ少年が感激したように言った。マリアンヌ姫はニコリと微笑み親指を上げた。
「駄目だ、下がろう! 隊長さんらと合流した方が賢い!」
コモドが声を上げる。
「分かりました!」
ダニエルが応じる。
「マリちーと、少年は走って!」
「行こう、アネーリオ君!」
マリアンヌ姫は興奮し暴れたりないような少年の背に手を置いて促す。二人は駆けた。背後を振り返る。コモドとダニエルも続いている。ゾンビは走りはしなかった。だが、後を追ってきている。きっと真紅の屍術師が操っているのだろう。マリアンヌ姫は少年と共に走っているが、自分は既に息を切らせながら走っている状態だった。
前方から二つの影が駆けて来るのが見えた。
フラマンタスとマグナスだ。マグナスも背は高いが、二メートル五十のフラマンタスと並ぶと小人に見える。
「皆、無事か!?」
マグナスが言うとマリアンヌ姫は頷いた。
「ええ、でも、ゾンビが追って来てます」
「そうですか、お疲れ様です、姫様、アネーリオ君、後は私とフラマンタスが引き受けます」
マグナスとフラマンタスは揃って十字剣を抜いた。コモドとダニエルも息も絶え絶えだったが、ここで倒れるわけにもいかず振り返った。
「昨日と同じぐらいはいるかもよ」
コモドが言うとマグナスは溜息を吐いた。
「また油を持って来なければならないか」
ゾンビの姿が見える前にこちらから歩み始めた。マリアンヌ姫はアネーリオ少年とその後ろに隠れている。自分達がもっと戦えればよかったが、非力なのは認めるしかなかった。これまでのことで明らかになったこととしてゾンビを殺すには首を胴から切り離す以外に、脳を潰せば良いことが分かった。残念ながらマリアンヌ姫の拳ではそこまではできなかった。
ゾンビ達の物悲しい鳴き声が聴こえ、前方の戦士達は並んだ。マリアンヌ姫も後方でアネーリオ少年と共に拳を握り、もしものために身構えた。




