表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/83

フラマンタスの刃23

 自分達以外誰もいない、小さな村には豪快な咀嚼音と鼻の詰まったような唸り声が聴こえる。

 外に出ると、ポツリポツリと雨が降って来た。

 マグナスが足を止めた。

「どうかしましたか?」

 フラマンタスは尋ねた。

「いや、これから天気は荒れるだろう。それによく考えれば夜だ。敵は視界が利くが、カンテラを頼りにする我々には不利だ」

「朝まで待つと?」

 再びフラマンタスが問うとマグナスは応じた。

「そうだ。万一、敵が襲ってきた場合に備えて待機するとしよう。宿へ戻ろう」

 いつの間にか大きくなった地を穿つ雨音が邪魔をしていたのか、コモドとフラマンタスはハッとして気が付いた。

 カンテラの灯りの中、一体のトロルが立っていた。高さは四メートル。標準的な体格だ。その筋肉の太い胴体の上に置かれたような丸い顔を見る前に敵は棍棒を振るってきた。

 フラマンタスはそれを両手と身体で受け止めた。

 脳が激震する。凄まじい力だ。だが、人間離れしている巨漢の中の巨漢、フラマンタスはその膂力ある一撃をしっかり受け止めた。

 マグナスが動く、波打った十字剣を突き出し、トロルの心臓を突き破った。

 音が止む間際の様な角笛の音色に似た声を出し、トロルは地面に倒れた。

「フラちゃん、よく受け止めたねぇ」

 コモドが感心したように言う。

「フラマンタス、さすがだな。掃討も済んだし引き上げようか」

「はい」

 雨音に負けじと三人の会話は大声でやり取りしていた。

 雨が身体を濡らす不快さでフラマンタスは考えていたある仮定を忘れていた。

 三人は引き上げ、待機していたしていたダニエルを驚かせた。

「もう済んだのですか?」

「そだよ、ダニーボーイ」

 コモドが気楽な口調で言った。

 三人は番をしながら交代で湯に入った。

 翌朝、良く晴れた日差しが村を照らす中、フラマンタスは目にした光景を見てある仮定を思い出していた。

 昨日、斃したはずのトロルの遺体が無かったのだ。

 これにはマグナスも驚いていた。

「夜とは言え私の剣は敵の心臓を突き破ったはずだが」

 マグナスが言う。

 コモドも同意していた。

 フラマンタスはここでようやく自分の考えを述べることにした。本来なら昨日、とどめを刺したあとに、もう一度とどめを刺すべきだった。新たな脅威を野放しにするようになり後悔しかなかった。

「トロルはゾンビの亡骸を食らっていたようです。私の考えが当たっていれば、トロルはゾンビ化したのでは無いでしょうか?」

 その言葉に各々戦慄していた。

「その可能性は考えられます」

 マリアンヌ姫が確固たる自信を持った顔で言った。

「何てことだ。私が甘かった。被害が出る前にトロルを見つけ出し掃討するぞ」

 マグナスが言う。フラマンタスも同感だった。雨さえなければ。

 無人の村に鳥は鳴かない。フラマンタスは村の中にトロルがいるのではと思った。

「ゾンビの掃討は済んでいる。手分けして探そう。姫様は私に同行してください」

「よろしく頼みます、マグナス」

 マリアンヌ姫が頷いた。

「フラマンタスはアネーリオ君と。コモド殿はダニエルと組んでくれ。見付けたら無理はせずに、知らせること。西方面は私が、東をコモド殿、北をフラマンタスがそれぞれ担当してくれ」

 一同は頷き、散った。

 フラマンタスは途中、ゾンビ達の亡骸と一つも遭遇しなかったことに危機感を覚えていた。

 あまりにも気味の悪い静かさを包む村に聴こえるのはしばらくは泥を蹴る二人の足音だけだった。点在する建物を左右に北を目指す。

「待って、フラ兄ちゃん、何か聴こえる」

 アネーリオ少年が言った。

 フラマンタスも耳をそばだてると、確かに音が聴こえてきた。

 ゾンビの声だった。

「どういうことだ?」

 掃討したと思ったが、掃討の途中、北にある物として印象強かったのは大きな墓場だった。だが、そこは嫌な場所であって脅威になるものは何もいなかったはずだ。

 墓の入り口が見えて来た。物悲し気な声が聴こえてくる。

「アネーリオ君、油断しないように」

「うん」

 墓の入り口は二つの木が左右に一本ずつ聳え、枝を絡ませ自然のアーチとなっていた。

 その下をヨロヨロ歩んで来るゾンビがいる。まだ少し遠いため性別は分からないが、女の亡者の声のようにも思えた。フラマンタスが十字剣を抜いた時だった。

 頭上から大きな影が飛来し、ゾンビを潰した。

 大地が揺れる。

「ガアアアッ!」

 そこにはトロルが立っていた。

「アネーリオ君、隊長とコモドに伝令を頼めるかい?」

「う、うん」

 少年は突然の敵の登場に少しだけ驚いたようだが、気を取り戻して駆けて行った。

 トロルは血の滴る女のゾンビの圧殺された無惨な死体を持ち上げると、噛み始めた。骨が折れる音が聴こえた。

 フラマンタスはトロルの左胸に確かに傷があるのを確認した。

 トロルはあっという間に食事を終えると、咆哮を上げて跳躍した。

 その身体がアネーリオ少年の前に下りた。

「いかん!」

 フラマンタスは駆けた。

 アネーリオ少年は勇敢にも身構え、十字短剣を引き抜いていた。

「打ち合うな!」

 フラマンタスの声が響き渡る。トロルの横殴りの一撃を少年は屈んで避け、懸命にも任務を心得ていたようで、そのままその場を駆け去った。

 フラマンタスは加速し斬りかかった。

 トロルが振り返る。目は濁っていた。

 やはりアンデット化している!

 フラマンタスの一撃をトロルは左腕を出して受け止めた。トロルにも負けない膂力あるフラマンタスの一撃は敵の腕を骨ごと断ち斬った。

 次は右腕を狙い、攻撃の芽を摘む!

 フラマンタスが意気込んだ時だった。トロルの切断された腕の傷口から、触手が飛び出してきた。

「こんなことが」

 フラマンタスの驚く前で、血と体液に濡れた太い触手がトロルとは別の意思を持つように宙を蠢いている。

 トロルの咆哮が上がり、触手が突き出された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ