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フラマンタスの刃22

 辿り着いた村は悲惨な雰囲気だった。

 あちこちを動く屍が徘徊していた。

 フラマンタスはアネーリオ少年と共に斥候に出て仲間の元へ戻った。

「トンネルで待ち伏せした者達の住んでいた場所のようです。村は死体達が闊歩し、生存者の存在は絶望的かと思われます」

 フラマンタスがマグナスに言うと、隊長は頷いた。

「片付けねばならぬだろう。教会戦士として、今は違うが、同じ人間として」

 そよ風が吹き抜ける。幻の臭いかもしれないが、腐った肉のような甘ったるい臭いを嗅いだような気がした。フラマンタスと目の良いアネーリオ少年が見たところ、ゾンビ達は既に腐敗が進んでいる印象だった。証明するものとして臭いと、他に動きも足を引きずるように遅かった。

「行こうか。マリアンヌ姫とアネーリオ君はここで待機を」

「いや、隊長さんそれは良くない選択だ」

 ゾンビ化の兆しから回復した傭兵コモドが言った。

「トンネルで挟まれたろう? 真紅の屍術師は亡者を自在に移動できるんじゃないかと俺っちは思う」

「私も同感です。沢にあれほどのゾンビが待ち伏せしていたなんて不可解です」

 姫が賛同するとマグナス隊長は頷いた。

「確かに。そうなると我々といる方が安全だな。凄惨な場面を見ることになりますが、お覚悟はよろしいですか?」

 マグナスがマリアンヌ姫を見て言った。

「もう慣れました。それに私だって教会戦士見習いです、責務を果たしましょう」

 マリアンヌ姫の言葉にマグナスはフラマンタスを見た。

「連れて行きましょう。アネーリオ君も後学として見た方が良いでしょう」

 フラマンタスが言うとマグナスは頷いた。そして溌溂とした持ち前の滑らかな声で言った。

「これより村へ入り、ゾンビを掃討する。各自油断はしないように。それとはぐれないように気を付けてくれ。脚は遅くともゾンビには変わりはない」

 隊長の言葉にフラマンタスら一同は頷いた。

 村はやはり酷い臭気だった。

 既に腐敗し糸を引いた汁だらけのゾンビ達が、恨めしそうな声を上げて、ヨタヨタと覚束ない足取りで迫って来る。

 一体気付けば、全部がすかさずこちら目指して低い声で鳴いて迫って来た。

 マリアンヌ姫とアネーリオ少年を背後に、フラマンタスとマグナスとコモド、ダニエルで周囲を固めながら歩んだが、転びそうなほど腐りきった脚ではゾンビ達の到着が遅かった。

 家屋の影を抜け、更に二体のゾンビが姿を見せた。首元にカビのような斑点があるのが見えた。顎は外れ、虚ろな声を上げている。

 フラマンタスは剣を薙いで首を刎ねた。隣にはコモドがいる。彼も新調したブロードソードでゾンビを裂き絶命させた。

「被害者には悪いが良い練習になる」

 コモドが言った。

「だったら俺も!」

 アネーリオ少年が十字短剣を抜いて言った。

「駄目よ、アネーリオ君はお姉ちゃんと一緒に見てましょう」

「分かった」

 マリアンヌ姫が優しい口調で言うと、アネーリオ少年は歯がゆそうに頷いた。

 マグナスとダニエルも問題無く戦ったが、ゾンビ達の動きは遅い。未だに各方面に散らばっていた。

 奴らが来るのを待つのか。

 フラマンタスはマグナス隊長を見た。

「油断するな。コモド殿の例がある」

 マグナスは辛抱強く言った。そして全員で固まりながら陣形を崩さず、こちらからゾンビ達と迎合し殲滅した。

 外の掃討が終わったのは日暮れだった。斃すだけならば楽な戦いだった。そこからカンテラを二つ入手し、再びまとまって各家屋の捜索に移った。中にはゾンビも生存者もいなかった。八十体ほどは斃しただろう。小さな村だ。大手居酒屋チェーン店猛牛の里は無かった。だが簡素な二階建ての宿があり、そこで夜を明かすことにした。

 マグナスが宿に残された食材で手料理を始めたが、肉は固い乾燥した保存用の物しかなかった。それでもアネーリオ少年はよく噛み付いていた。マグナスの野菜スープは素朴だが美味しかった。

「こりゃあ、ダニーボーイのより美味しいぞ」

「確かに、コモドさんのよりも美味しいですね」

 コモドとダニエルは互いに皮肉を言い笑い合った。明日は村人達を埋葬しなければならない。この人数で、しかも遺体の状態はとても悪い。触れて良いものか、ダニエルがマリアンヌ姫に訊くと、姫はかぶりを振った。

「腐敗し過ぎていて、体液に触れるのは危険です」

「じゃあ、マリちー、どうするん? このまま放っておくのか?」

 コモドが問うとマグナスが答えた。

「直接一体ずつ火をかけて行こう。面倒だが確実な方法だ」

 異議は無く夜の食卓は終わった。

 マリアンヌ姫とアネーリオ少年が、マグナスとダニエルが同じ部屋で寝て、フラマンタスはコモドと共に宿の入り口付近に座った。

「俺っち、眠っちゃダメな時に限って眠くなるのよね」

 対座しているコモドがあくびを噛み殺しながら言った。フラマンタスもその気持ちは分かっていた。

「そういうものだ。先に寝て置くと良い、私が番に就こう」

「悪いね、フラちゃん」

 コモドはそう言うとカウボーイハットを顔にかぶせ、寝てしまった。

 静かな夜だ。どこかでフクロウが鳴いている。

 フラマンタスは聴き入っていたつもりが、その鳴き声がいつの間にか止んでしまったことに気付いた。

 野生動物の勘は鋭い。自分よりも強い者が現れると身を潜める。

 狼でも出たか。

 フラマンタスは耳をそばだてた。

 と、地面が揺れるほどではないが、何か少し大きなものが歩んでいる足音を聴いた。

「コモド」

「聴こえてる」

 コモドは帽子を取って言った。

「俺が見て来る」

「こんな夜中に一人じゃ危険だよ。隊長さんとダニーボーイを起こしてくる」

 すると鳴き声が聴こえた。鼻を鳴らす様な間抜けな声は聴き覚えがあった。

「トロルか」

「だな」

 コモドは立ち上がると階段を上がって行った。

 フラマンタスは既に立ち上がり、壁に身を預け、十字剣を抜いて、外の音を聴いていた。クチャクチャという音と、バキバキという音が聴こえた。

 これも聞き覚えのある音で、フラマンタスはある仮説を立てていた。トロルがゾンビの肉を食べたらどうなるのだろうか。と。

「フラマンタス」

 武器だけ手にしたマグナスとダニエルが降りて来た。

「トロルのようです」

 フラマンタスが告げるとマグナスは頷いた。

「ダニエル、ここに残って姫様と少年を頼む」

「は、はい」

 ダニエルは緊張した面持ちで敬礼した。

「フラマンタス、コモド殿、カンテラを持って我らはトロル退治に行こう」

「はっ」

「おうさ」

 マグナスが扉を開ける。

 咀嚼音が聴こえる闇の中へと三人は歩み出したのであった。

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