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フラマンタスの刃19

 外はまさしく死体の山、いや、海だった。広がる真っ赤な血の上には切り離された人だったはずの首と胴体が横たわる。こんな光景をマリアンヌ姫とアネーリオ少年には見せたくはなかった。

 教会戦士は五十人ほどかと思っていたが集結したのは百人だった。隙の無い鎧兜を身に着け、死体を集めて火葬にする作業に移っている。アネーリオ少年は目を輝かせて憧れの教会戦士達の甲冑姿を見ていた。

「食堂で部下が芋のスープを作っています。この二日、何もお食べにはならなれていないでしょう?」

 マグナスが姫に尋ねた。

「はい、携帯食料で細々と食いつないでいましたが、満足には食べてはいませんね」

 と、マリアンヌ姫のお腹が鳴った。

「あ」

 姫はそう言うと苦笑いしていた。

 マグナスは鉄仮面を脱ぎ顔を頷かせた。フラマンタスと同年代かもしれない。ヒゲは綺麗に剃られ、赤い髪をしていた。顔は端麗で冷静そうで知的な雰囲気だったが、珍しいことに瞳は両方とも赤だった。

「案内します」

 死体を数か所に集めている教会戦士達の中を抜けて、フラマンタスらが案内されたのは、大手居酒屋猛牛の里だった。

 炊事場に兜を脱いだ教会戦士達が五人いた。彼らは敬礼しようとしたようだが、マグナスが制した。

 フラマンタスらが席に着くと、コモドが言った。

「隊長さん、お願いがあるんよ」

「何かな?」

 マグナスは笑みを浮かべて応じた。

「俺っちの武器さ、短剣なんよ。でもこいつで戦うのはちいっと危険なんだわ」

「ゾンビの懐に飛び込まねばならぬからな」

 マグナスが言うとコモドは頷いた。

「そう、だから店主のいなくなった武器屋から長物の武器を拝借したいから許可いただけませんかね?」

「分かった。認めよう」

 マグナスは快く応じ、真面目な顔つきになってフラマンタスを見た。

「今回のように籠城ともなると、ゾンビが腐りに腐ってもう一度、死ぬまで待たねばならんぞ。一週間やそこらではない。今の旅を続けてこれからも大丈夫なのか? 見れば、夏に備えて鎧を脱いでいるようだが」

「鎧を生かした戦いはできなくなった。正直、それが響いているのだとは思う。今回は姫様が送ってくれた伝令のおかげでこうして命を拾ったのは事実です」

「これから先に進むとなると、王都からの援軍も時間が掛かる。今回の籠城のような消極的な戦いはジリ貧と同じだ。通用せんぞ」

 マグナスが再びフラマンタスを見て言った。

「でも、フラちゃんが冬仕様のままだったら、これから先は毎日熱中症を起こしてそれこそ大変だ」

 コモドが答えた。

「そうだな。さて、どうしたものか。真紅の屍術師の気まぐれで犠牲になるのは民達だ。オニキスのタリスマンを配ろうにも察知されて先手を打たれるだろう」

 マグナスは前回のフラマンタスの言葉を覚えていたようでそう言った。

 沈黙が周囲を包む。聴こえるのは金属の鍋の蓋と容器がカタカタと沸騰する音だけだ。

「正直策は思いつきません」

 姫がまず口を開いた。

「真紅の屍術師は今回はフラマンタスさんが夏の姿になったからと言ってこうして騒ぎを起こしました。だからマグナス、あなたを連れて行ったり、少しでも私達に変化があれば、相手は喜んでまるでお祝いのように人々をアンデット化させて仕向けるでしょう」

 マリアンヌ姫が言うとマグナスは頷いた。

「姫様の言う通り、私が同道できればと思った。鎧は脱ぐつもりではあるが、腕には自信がある」

 マグナスはフラマンタスを見詰めた。覚悟を決めた顔をしていると、フラマンタスは思った。

「気まぐれに賭けてみないか?」

 マグナスはそう言い、フラマンタスを見続けている。

「腕自慢の私一人が加わっても、真紅の屍術師はさほど脅威には思わないかもしれない」

「確かに、脅威という点では敵はそう思ってはいないでしょう。ただ遊び相手が増えたら奴の心を刺激してしまうのだと、それが心配です。犠牲になるのはいつだって民なのだから。奴は遊び半分でいつでも引き金に指をかけている」

 フラマンタスはそういったが、マグナスを加えても加えなくてもこの先犠牲は出るだろうとも考えていた。民を思えば迂闊に敵を刺激するのは控えたかったが。

 だが、ダニエルが言った。

「マグナス隊長を加えても加えなくても、相手は遊び心を動かすはずです。行く手を絶対阻みます。だから今後、何百何千と犠牲は必ず出ます。いち早く邪法師を討つためにも、この討伐の旅に終止符を打つためにも、ここはマグナス隊長に加わってもらうのはどうでしょうか?」

 フラマンタスは仲間達の顔を見た。

「まぁ、ダニーボーイの言う通り、敵さんはゾンビ攻撃をしかけてくるだろうな。俺らで遊ぶために」

 コモドが言った。

 フラマンタスは思案した。進む先、進む先で、今回と似たような状況が起これば、自分達にできることは限られている。マグナスの加入など敵にとっては案外脅威にも興味にも思わないだろう。何故なら、今回の様な無様な結末を敵は見たはずだからだ。たった一人の腕自慢が何だというのだ。

「フラマンタス、君は敵に乗せられている」

 そう言われ、フラマンタスはマグナスのその言葉の続きを待った。

「君は敵が君を狙って騒動を起こしていると思い込んでいる。だが、実際のところ、今も各方面でゾンビ騒ぎが起きている。何を言われたかは知らんが、君に執着しているというわけじゃないんだよ」

 その言葉を聴きフラマンタスは心が洗われるようだった。確かに頑固にも真紅の屍術師が自分を狙って騒動を起こしていると思い込んでいたが、各方面でもそれらは起きている。ならば真紅の屍術師が自分に興味を持っているのは思い込みなのではないだろうか。どの道、全てを死に変えるつもりなのだろう。

「我々にできることは、いち早く真紅の屍術師の居場所を突き止め、斃すことだ」

 フラマンタスはそう言うと、マグナスを見た。

「奴を斃すために力を貸していただきたい。本当なら教会戦士を百人ほど連れて行きたいが、それでは確実に相手の遊び心に火を着けるのと一緒だ。マグナス隊長」

「喜んで力を貸そう」

 マグナスはそう言いフラマンタスに向かって頷いたのだった。

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