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フラマンタスの刃18

「急いで! 急いで!」

 向こう側でダニエルが声を上げる。

 フラマンタスとコモドは懸命に廊下を駆け、部屋に飛び込んだ。

 そして打てば響くように二人の考えは合致し、ダニエルが錠を掛けるや戸棚を持ち上げて扉の前に置いた。

「ベッドも!」

 フラマンタスが言うと、マリアンヌ姫達も慌ててベッドに取りつき、全員で持ち上げて戸棚の後ろに置いた。簡易式のベッドではなく少しだけ造りが高級だった。そのため、重くて大きく、これなら時間を稼げるだろうとフラマンタスは考えた。

 身構える一行の耳にすぐさま、扉を殴る様に叩く音と、怨嗟のような呻き声がたくさん聴こえて来た。

「しばらくはもつ」

 フラマンタスが言うと、マリアンヌ姫とダニエルは少しだけ安堵したように息を吐いていた。アネーリオ少年は十字短剣と小盾を手に、まるで今か今かと扉が打ち破られる時を待っているかのようだった。

「うへぇ、下、見て見なよ」

 バルコニーでコモドが言った。

 想像しなくても分かるが、想像通りだった。町中の人と隣村の人々、今は動く屍となってしまった者達が完全に包囲し、徘徊していた。逃げ場はない。フラマンタスらは叩かれる扉の音と震える家具を見てただ時が来るのを待つだけだった。食料は携帯食があるが、水は無かった。どれだけ苦しい籠城戦になるのか、ただの教会戦士であるフラマンタスには想像もできなかった。

 このような状況では眠れない。陽が暮れても扉を叩く音、薄気味悪い亡者の声は止まなかった。

 姫と少年、そしてダニエルにも疲れの色が見えた。誰だってこの状況なら精神的に追い詰められるだろう。フラマンタスは皆に言った。

「ここは永遠にあるいはしばらくは破られないだろう。君達は安心して休んでくれ。俺とコモドが交代で番をする」

 フラマンタスの言葉にコモドは頷いた。

「マリちーと少年はベッドで横になっていたらどうだい?」

「ベッドでですか?」

 マリアンヌ姫が家具で見えなくなった扉の更に後ろを押さえているベッドを見て言った。

「不安なら床で寝ると良い」

 フラマンタスはベッドの毛布を剥ぐと床に敷いた。

「ありがとうございます。アネーリオ君、少し眠ろうか」

 マリアンヌ姫が言うと少年はかぶりを振った。

「俺は起きてるよ」

「駄目よん、少年、寝た寝た。寝て体力を少しでも回復させないと守れる者も守れなくなっちゃうよん」

 コモドが諭し、少年は頷いた。そして姫と並んで毛布の上に寝転がった。

「それじゃあ、おやすみなさい」

 マリアンヌ姫はアネーリオ少年に向かって微笑んだ。そして一分も経たない内に寝息を立てた。

 大物かもしれない。と、普通なら言いたいところだが、ゾンビ一色の町を駆け、街道を駆け、駆けに駆けた上に、この声と音の精神攻撃だ。疲れない方が無理がある。

 しばらくして安心したのか少年も寝息を立てた。

「ダニーボーイも休んどけ。俺っちも仮眠を取らせてもらうからな」

 コモドが壁に背に座り込んだ。

「フラマンタスさん、よろしくお願いいたします」

 ダニエルはすまなそうに言い、コモドの隣に並んで目を閉じた。



 2



 あれから二日が経った。携帯食料も細々と食べていたが底を尽こうとしていた。

 マリアンヌ姫が気を遣い、自分に割り当てられた食料をフラマンタスに差し出してきた。

「いざという時、力が入らないのでは困ります。どうぞこれを」

「私なら平気です。教会戦士としてそういう訓練も受けていますので」

 水のことを言わないのはもはや暗黙の了解だった。誰もが渇きに飢えている。

 ゾンビ達はしつこく扉を叩き続けている。声もだ。外も相変わらずゾンビだらけで、コモドは「アンデッド・ゾーン」と、名付け、今の状況を現した。

 と、窓を叩く音がした。

 振り返れば、そこには大きな茶色の鳥がいた。

「確か、マリアンヌ姫の」

 ダニエルが言い、コモドが窓を開けた。

 鳥は気丈に振舞っているマリアンヌ姫の腕に止まった。脚に書状が結わえられている。

「クリス君、ありがとう」

 マリアンヌ姫はそう言い、声に出して手紙を読んだ。

「遅くなって申し訳ありません。これより助けに入らせていただきます。マグナスからです」

 途端にフラマンタスは興奮するのを感じた。

 ついにこの苦境から脱出できる。仲間達の顔も明るかった。

 一同はバルコニーへ出た。

 程なくして西の方から鬨の声が上がり、大波のように教会戦士団が剣を煌めかせ、掃討に入るのを見た。

 フラマンタスは自分達の居場所を主張したいところだったが、指揮が乱れるのを恐れて、ただ討ち入りの様子を眺めているだけだった。

「居場所なら伝えてあります。マグナスらに順序は任せましょう」

 マリアンヌ姫が言った。

 総勢五十の教会戦士達が、肉が腐り始め動きがのろまになったゾンビ達を片付けている。

「マリアンヌ姫!」

 宿の下でマグナスが声を上げた。

「建物の中もゾンビで溢れています! 気を付けて!」

 姫が言うと、黒衣の鎧を身に纏ったマグナスは先頭で宿に斬り込んで行った。

 床を通し、下の慌ただしい音が聴こえてくる。

 十五分ぐらいして、扉が丁寧に叩かれた。

「マグナスです。この建物の敵は討ち果たしました」

 その言葉を聴き、一同はベッドを持ち上げ、棚を戻し、フラマンタスが正面で待ち構え、コモドが鍵を上げ、扉を開いた。

「おお、やっぱりデカいな」

 黒衣の教会戦士部隊長のマグナスが言った。

「マグナス、来てくれてありがとう」

 姫が言った。

「よく頑張りましたね」

 マグナスは疲れ切った一行を励ますように言い、黒い鉄仮面越しに言葉を続けた。

「廊下や階段はゾンビの死骸だらけです。足元は汚れますが、御容赦ください」

 マグナスの言葉を聴き、彼に先導されて廊下に出ると、彼の言う通りゾンビの亡骸と血で廊下は埋め尽くされていた。

「隊長、この建物は燃やすべきです。火葬にしてしまいましょう」

 マグナスの部下が進言した。

「そうだな、ロッシ。これだけ陰惨に汚れてしまったのだ。クリーニングをして新しく使おうなどと思う者はいないだろう」

 マグナスはそう言い、先に歩く。

 濃い血の匂いが充満している。そんな中を晴れ晴れとした表情でフラマンタス達は歩き始めたのだった。

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