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フラマンタスの刃16

 四方八方から物悲しいような虚ろな声を上げるゾンビ達は、フラマンタスらを見付けると声を荒げてヨタヨタと前のめりになりながら歩んで来た。

 フラマンタスは十字剣を抜いた。

 だが、囲まれ、どこから突き崩すべきか苦慮していた。以前のように鎧頼みな戦い方はできない。腕、脚、顔、首筋、弱点を幾つもさらけ出している。円陣を組んだ。

 男のゾンビが駆け寄って来た。フラマンタスは剣を一閃させてその首を刎ねる。

「きゃっ」

 背後からマリアンヌ姫の声が聴こえた。

 見れば、壮年の武器屋の店主が腕を広げて彼女を捕まえようとしていた。

 先ほどまで生きていたのに!

 と、アネーリオ少年が、跳躍し、跳び膝蹴りをゾンビに食らわせた。武器屋の主だったゾンビは鼻が拉げ、倒れた。

「よっしゃ!」

 少年が言ったが、顔を潰されても、ゾンビは起き上がった。

 コモドとダニエルも交戦に入った。コモドはさすがの俊敏な動きで短剣という短い武器でゾンビの手を落とし、首を刎ねていた。

 ダニエルは苦戦していた。一体のゾンビを相手にし、足を突き刺し、ゾンビは倒れる。だが、這い寄る様に進む頭を地面に縫い付けた。アネーリオ少年はその戦い方を見ていたらしく、店主のゾンビの足に十字短剣を突き刺し、転んだところをダニエルと同じく刃で頭を貫いた。

「しかし、フラちゃん、こりゃ不利だぜ。町の住人全部が敵なんだから、何百と相手にする必要がある」

 コモドが言った。その通りだった。ゾンビ達は徐々に集結し始め、層が厚くなるばかりであった。

 真紅の屍術師に背を見せるのは悔しいが、このままだと数で押し切られる。

「撤退しよう、街道まで」

 フラマンタスの声に反対する者はいなかった。

 彼とコモドが道を開き、マリアンヌ姫とアネーリオ少年が続き、しんがりはダニエルだ。

 行く手を阻むゾンビを裂き、フラマンタスらは駆けた。

「おやおや、逃げるのですか?」

 どこからか真紅の屍術師の嘲笑う声が聴こえた。

「耳を貸すな」

 フラマンタスは己に言い聞かせる様に言うと、ゾンビ達を一刀の下に斃して、どうにか街道まで逃れた。

 マリアンヌ姫とダニエルが呼吸を荒げている。アネーリオ少年とコモドは何ともないような顔をしていた。

 街道まで来たがどうする。

「援軍を要請しましょう」

 マリアンヌ姫が言うと彼女は指笛を吹いた。

 するとどこからか大きな鳥が現れた。鷹だろうか。

「クリス君、マグナス隊長にこれを」

 マリアンヌ姫は前もって書いていたのか、書状を鳥の脚に括りつけると、王都方面へ飛ばした。

「さて、援軍が来るまでここで待機かな?」

 コモドが言った。

 だが、事態がそうはさせなかった。虚ろなゾンビ達の声がこちらへ迫って来るのを聴いた。

「真紅の屍術師が差し向けたのか」

 フラマンタスは剣を取った。

 一同が身構えていると、一体、また一体とゾンビ達が歩んで来た。

「やるしかないな。だろ、フラちゃん?」

 コモドが言った。

「ああ。行こう」

 フラマンタスらは前進し、ゾンビの群れと交戦した。

 次々首を刎ね、フラマンタスとコモド、ダニエルは、狂ったように剣を振るう。だが、ゾンビの数は減らない。ダニエルに呼吸の乱れが生じ始めた。

「駄目だな、更に撤退しよう」

 フラマンタスはそうそうに見切りをつけて、一同に言った。

「だけど、人里まで導くことになりますよ」

 ダニエルが言った。

「やはり、鎧を脱いだのは失敗だったか」

 フラマンタスはそう言い、ズラリと続くゾンビの群れを見て言った。

「撤退だ! 姫、アネーリオ君、走って、ダニエルも、死にたくなければ駆けろ!」

 フラマンタスは声を上げて、しんがりに踏みとどまった。ゾンビ達は大口を開けてヨタヨタと迫って来る。

 それを切り伏せ、フラマンタスとコモドはマリアンヌ姫らが離脱するのを見守った。

 勇敢で義理堅いコモドはフラマンタスと共に残り、剣を振るった。

「俺っち、別に短剣だけが得意ってわけじゃないのよね」

 撤退しながらコモドが言った。

「実際、ゾンビの懐に飛び込むのは勇気がいるよ。今度長物を相棒にしようかな」

「それが良い。新鮮なゾンビは動きが早い」

 撤退を続けていると、背後からマリアンヌ姫らが駆け戻って来た。

「どうした?」

 両者は合流した。

「それが、向こう側からもゾンビの群れが!」

 ダニエルが言った。

 真紅の屍術師め。

 フラマンタスは驚いたが絶望はしていなかった。自分が絶望すれば、皆の心を動揺させるだろう。それは負けと一緒だ。

 ゾンビ達の声が遠くから前と後ろと聴こえていた。

 自分だけで特攻するか?

 残るは街道脇の草むらへ入り、道なき道を行くしかないが、ゾンビ達を下手にはぐれさせることになる。悪意は全て断たねばなるまい。そうだ、やるべきだ。俺は教会戦士なのだから。

「町へ戻ろう。姫が手配した助けが来るまで籠城する」

「ですが、町には何百というゾンビがいますよ?」

 ダニエルが顔を青ざめさせて言った。

「行くんだよ、ダニーボーイ。マリちーと、少年も俺達から離れないようについておいで」

「分かりました!」

 コモドが言うとマリアンヌ姫が返答する。

 フラマンタスらは絶望の中へ飛び込み、無我夢中で剣を振るい、幾つもの肉と骨を断った。コモドとダニエルも必死に攻撃をしている。道は確実に開けつつある。ゾンビだらけの街道を抜け、ゾンビだらけの町へ入る。

「宿に行きましょう! 扉も頑丈ですし二階建てです!」

 ダニエルが提案した。

 宿はすぐに見つかった。

 行く手を塞ぐように現れるゾンビを斬り捨て、フラマンタスは宿を開いた。

 三体のゾンビがいた。

 フラマンタスは咆哮を上げて斬りかかり、ゾンビ達の首を刎ねた。

 ダニエルが大きな扉を閉め、姫が即座に鍵を掛ける。

 瞬く間に扉は震えた。ドンドン、ガンガン、扉が叩かれている。生者の肉と血を求める声にならない声が幾つも聴こえて来た。

 フラマンタスらは緊張しながらその様子を見る。

「ここは俺が見張ろう。皆は二階を確認してきてくれ」

 フラマンタスが言うと一同はコモドを先頭に階段を駆け上がって行った。

 長い一日になるか。そうはならないか。後者はつまり、早々に扉が破られ、自分達がゾンビの仲間入りをすることを指している。鎧さえあれば。

「フラ兄ちゃん、二階は全部屋異常なし!」

 階段の上からアネーリオ少年が言った。

「分かった」

 フラマンタスは応じた。仲間達が駆け下りてくる。皆の顔が緊張していた。

「やはり、俺は壁になるべきだった」

 フラマンタスは弱音を吐いていた。気付いたときにはマリアンヌ姫が言った。

「あれだけの数です、鎧を着ていても身動きが取れなくなっていたでしょう。運が悪ければ鎧を剥がされて……」

「確かに。申し訳ありません」

 フラマンタスは弱音を吐いたことを謝罪した。その間にも扉は揺れ軋み、亡者達の食べ物を求める呻き声は止まなかった。

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