フラマンタスの刃15
暑くなって来た。
教会戦士の甲冑はほぼ全身を保護し、ゾンビの歯を通さないが、通気性は当然悪く、これからの季節には相性が悪かった。教会戦士の証としては十字剣さえあれば特に問題は無かった。しかし、皆の盾となり鎧となり、無敵の壁を演じる者がいなくなる。これまで孤高時代にやってきた鎧任せの無謀な戦いはできなくなる。だが、正直、このまま甲冑でいると熱中症になって倒れるであろう。
「衣替え?」
例によって大手居酒屋チェーン店猛牛の里で晩の食卓を囲みながらフラマンタスが言うと、マリアンヌ姫とダニエルが驚いたように声を揃えた。
「まぁ、確かに暑くなってきたからね」
コモドが酒を呷り言い、ゲップをした。
「そうなんですか?」
姫が問う。
フラマンタスは頷いた。
「皆の壁役ではなくなってしまうが、良いだろうか?」
「良いんじゃ無いですか? フラマンタスさんなら動きでカバーできますし、我々だっていつまでもあなたを犠牲にした戦い方はすべきでは無いと思っておりましたから」
ダニエルが応じた。
「そうなのか?」
フラマンタスが一同を見ると、コモド、マリアンヌ姫が頷いた。アネーリオ少年はマリアンヌ姫の隣で飲み食いに忙しそうだった。
「ついでに、アネーリオ君の鎧も手に入れましょう」
マリアンヌ姫が言うと、アネーリオ少年は顔を上げた。そして口の中の物をオレンジジュースで飲み下して言った。
「俺も鎧着れるの?」
「今のフラマンタスさんのような板金鎧は無理だとは思うけど、鉄の胸当てぐらいなら着れるんじゃないかな?」
ダニエルがフラマンタスに問うように見て来た。
アネーリオ少年は抜きん出て力が強いわけでも無いが、持久力とガッツがあった。行く先々で外周を共に走り思ったことだった。剣も十字短剣を使いこなしている。伸び盛りだが背の低さを生かした身軽な戦い方が彼の持ち味だろう。鉄の胸当ては前だけを守る物だ。後ろはがら空きである。鎖鎧を下に来ても良いかもしれないが、それは合わせてみないと分からない。
「明日、店に行ったら決めよう」
フラマンタスはそう言った。
2
町にあった武器と防具の店は一軒だけだった。王都の方が品揃えは良いだろうが、仕方が無かった。
アネーリオ少年のことはコモドらに任せ、フラマンタスは教会戦士の鎧について悩んでいた。
「これを預かってはもらえないだろうか? 金は払う」
さすがに制服ともいえる鎧を下取りに出すわけにはいかなかった。
壮年の体格の良い店主は代金が貰えるならと言って応じてくれた。
そこからは防具を物色し始めた。
レガースはそのままに、籠手もそのままで良いだろう。フラマンタスは金属の胴鎧を見付けた。革に金属の板が縫い付けてある鎧だ。それの最高のサイズがあり、店主も「まさか売れるとは」と、声を漏らしていた。兜はかぶらないことにした。
「マリアンヌ姫」
フラマンタスは財布係を呼ぶ。
と、アネーリオ少年が歩んで来た。
片手にバックラーと呼ばれる小さな円い盾を手にし、鉄の胸当てをしている。後は革のブーツに、鉄の突起の付いた膝当てをしていた。籠手はしていない。
「その膝は?」
フラマンタスが問うと少年はニヤリと笑みを浮かべた。
「俺、跳び膝蹴りが得意なんだ。これならゾンビの顔面を吹き飛ばせるかもしれない」
できれば自分やコモド、ダニエルで解決したい。だが、少年も立派な戦力にしようと考えていたことを思い出し、特技は伸ばすべきだとフラマンタスは思った。
「へぇ、二人ともいけてるじゃん。少し早い夏バージョン」
コモドが言った。
「姫様、どうでしょうか?」
「問題無いですよ」
マリアンヌ姫は頷き、会計を始めた。
「マリちー、マリちー、値引き交渉ならコモちゃんにお任せを」
コモドがその後をついて行く。
ダニエルが呆然とフラマンタスを仰いでいた。
「何だ?」
フラマンタスが尋ねるとダニエルは苦笑いした。
「いやぁ、鎧を脱いでも大きな人だなって。その存在感に憧れますよ」
「もう壁役はできないからな、ダニエル、頼むぞ」
「ええ、任せて下さい」
衛兵だった彼はそう頷いた。
姫達が戻って来た。アネーリオ少年もなかなか精悍な格好になった。フラマンタスは満足した。
もう一泊し、再び運命に向けて歩み出す。フラマンタスは独りでは無かった。頼もしい仲間達がいる。
と、不意に周囲の人々が苦し身悶え始めた。マリアンヌ姫が近づこうとしたがフラマンタスが手を掴んで止めた。
人々は次々倒れて行く。
真紅の屍術師! どこだ!?
すると、声だけが聴こえて来た。
「夏仕様とは面白いですね。鉄壁でなくなったあなたをこの機会に亡者に仕立て上げたいものです」
「何処だ、何処にいる!?」
ダニエルが声を上げるが、返って来たのは虚ろな死者達の呻き声だった。
ゆっくり手を地面に付き、たった今まで生きていた彼らはまるで何事も無かったかのように立ち上がり出した。
だが、目は濁り、歯を剥き出しにして、ヨタヨタとフラマンタス達に迫ったのであった。




