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フラマンタスの刃12

「いるな」

「ああ」

 コモドと共にフラマンタスは町の門の鉄格子の先に広がる闇から聴こえる声と闊歩する足音を聴いてマリアンヌ姫達に合流した。

 未明に町の近くへと辿り着いた。夜の戦いは視界が悪く、不利だと悟ったフラマンタス達は町の近くに身を落ち着けていた。

「町の全員がゾンビになったと思うか?」

 傭兵コモドが尋ねて来たが、その視線はマリアンヌ姫の膝の上で眠る少年に向けられていた。

「この子はオニキスの腕輪をしていたのでゾンビ化を免れたのだと思います」

 姫が少年の頭を労わる様に慰める様に撫でつつ言った。

「と、いうことは偶然助かったと?」

 ダニエルが次いで問うとマリアンヌ姫は肯定した。

「町の全員を相手にするには分が悪いよな。幾ら俺やフラちゃんが一騎当千の猛者でもさ」

「あ、今、韻を踏みましたね」

「茶化すとこじゃないよ、ダニーボーイ」

 仲間達が話している。

 フラマンタスも思案していた。広い場所で囲まれれば不利だ。コモドは強いが俊敏な動きが武器だ。ということはいずれ体力を使い果たす時が来るだろう。町の総人口を相手にするのだ、二人がかりで、いや、四人がかりでも、戦うには不利だ。場所を選ぶ必要がある。宿で戦ったように、階段のように一度に戦える相手の数を制限できる場所ならば。

 すると、少年が目を覚ました。

「ここどこ?」

 少年は勢いよく頭を上げたのでマリアンヌ姫の鼻面と派手にぶつかってしまった。

「イタタ、鼻血が」

「あ、ごめんなさい」

「良いのよ、お姉さんなら大丈夫だから」

 姫は仰向けになって応じた。

「そうだった、皆がゾンビに」

「分かっている。ここは町から少し離れた場所だ」

 フラマンタスは少年を刺激しないように冷静に応じた。

「坊や、名前は?」

 ダニエルが問うと少年は言った。

「アネーリオ」

 フラマンタスはアネーリオの肩に手を置いて言った。

「アネーリオ君、辛いかもしれないが、町の人達を我々はちゃんと天国へ送らなければならない。君はこのマリアンヌお姉さんと、ダニエルと一緒にここで待ってられるかい?」

「おじさん、教会戦士なんでしょう?」

「そうだよ」

「皆のこと頼むよ。俺は言いつけ通り、ここで待ってるから」

「良い子だ。町の人達のことは任せておきなさい」

 フラマンタスは少年が義憤に燃えたら厄介だと思ったが、弱気だろうか、あるいは冷静なのだろうか、少年は賢い選択をしてくれた。

「俺じゃ勝てないから」

 少年がそう付け加え、フラマンタスは彼が冷静な思考の持ち主だと判断した。

「アネーリオ君、お腹空いてない?」

 マリアンヌ姫が尋ねるとアネーリオはかぶりを振った。

「みんなでご飯食べたから」

「あ、ご、ごめんね、嫌なこと思い出させちゃったよね?」

 姫が謝罪するが、アネーリオ少年は特に応じなかった。

 そして夜が明ける。

「じゃあ、ダニーボーイ、マリちーと少年のこと頼んだぜ」

 コモドが二振りの短剣を鞘に収めて言った。

 フラマンタスは少年の顔を見た。朝日に照らされる顔は、利発そうな大人びた顔だった。フラマンタスと同じ茶色の髪をしているが、少年の方が赤みがあった。フラマンタスは十字短剣の収まった鞘を少年に渡した。

「君にこれを貸そう。もしもの時はお姉さんを任せるよ」

「わ、分かったよ」

 少年は短剣を受け取り鞘から少し出して刃の煌めきを確認したようだった。

「では、コモド行こう」

「あいさー」

 フラマンタスとコモドは不利を承知で歩み始めた。

 程なくして物悲し気な虚ろな声が聴こえ始めた。

 鉄格子の入り口越しに朝日の中を当てもなく歩くゾンビ達の姿が見えた。

 コモドと頷き、二人は町へ侵入した。後顧の憂いを断つために鉄格子の扉は閉めた。

 さっそくゾンビ達がふらふらとこちらを見始めた。大通りいっぱいにゾンビがいる。それらが大行進を始めた。

「コモド、下がって俺の鎧なら奴らの歯を通さない」

「それは聴けないプランだね。とりあえず、良い場所探そうぜ、適当に民家の入り口とか」

「分かった」

 二人は東門から北へ駆けた。

 途中、こちらも多数のゾンビがいた。背後にもゾンビがいる。こうなることは分かっていたが、早々に挟まれた。

 コモドが背後の大手居酒屋チェーン店猛牛の里の扉を開いた。

 中には誰もいなかった。

 ゾンビ達が行儀よく、開け放たれた一つだけの扉を潜ろうとする。フラマンタスは刃を振り下ろした。ゾンビは血と臓物の中に息絶えた。

 そうやって一体ずつ処理して行く。

「良いもん見つけた」

 コモドが分厚い肉切り包丁を手に戻り、フラマンタスと代わった。

「くらいな!」

 コモドの肉切り包丁はゾンビの頭蓋を真っ二つにした。

 と、背後から音がした。誰もいないと思ったが、カウンターの陰に見覚えのある店の主人が虚ろな声を上げて立ち上がっていた。濁った眼球を向けてヨタヨタと椅子に足を引っ掛けながら向かってくる。

 フラマンタスは素早く対応し、剣を振るい首から分断した。

「こんな戦い方だと堅実だけど明後日になっちまうぜ」

 入口を潜ろうとするゾンビを裂き、コモドが言った。

 その時、笛の音色が鳴った。

「何だ?」

 コモドが問う。

 その一方、フラマンタスには耳に馴染んだ音であった。教会戦士団の合図だ。

「どうやら援軍が来たらしい」

「マジか? いやぁ、良かった良かった」

 コモドはゾンビの死体を蹴り返し、扉を閉めた。

「隙が出たら加勢に出れば良いよな?」

「ああ」

 フラマンタスは応じ、厚い窓の外を見た。

 ゾンビ達の中を引き裂いている黒い甲冑に身を包んだ教会戦士がいた。

「マグナス」

 フラマンタスは呟いた。

「お知り合い?」

「同僚だが、話したことは無い。だが、腕は確かだ。私以上かもしれない」

「そうかい。そろそろ出よか?」

「私が先に出よう」

 フラマンタスは扉を開いた。折り重なるゾンビの亡骸の向こうで十人ほどの教会戦士達が十字剣を振るっている。

 先を行く黒衣のマグナスは圧倒的な強さだった。

「貴様、教会戦士か?」

 隊列の後ろにいた同僚がこちらに気付いて話しかけて来た。

「ゾンビの振りしようか?」

「絶対やめて置け」

 コモドにそう言うとフラマンタスは十字剣を見せた。

「そうか、その身体の大きさはフラマンタスだな」

「ああ。共にいるのは傭兵コモド、協力者だ」

「どもども。コモドでーす」

「ひとまずは我らの後を」

 教会戦士が言った。

「分かった」

 フラマンタスとコモドは教会戦士達の後ろに続いたのだった。

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