第8話 アイムユアー実母
僕はあまりに奇想天外なことを言う彼女に、半笑いになってしまった。
「ど、どうしたんだよ。急に嘘なんか並べちゃって……らしくないな」
「なら、お父さんに私・麻也に関する質問をしてみてください。そしたら十中八九答えられますから」
僕は彼女の「このときを待っていた」と言わんばかりの自信に、狂気じみたなにかを感じていた。
「……どういうことだよ」
「私にもよく分かりませんが、この世界に帰ってきちゃったんです」
彼女は有耶無耶な回答を続ける。僕がこんなSFじみた話を信じるわけがなかった。
「信じない……。僕は絶対に信じないから」
「では、兼平麻也の趣味、二人の出会った場所、駿さんの出産予定日、結婚式の候補地に挙げていた場所、これらをお父さんに聞いてみてください」
「……分かった」
僕は黙ってスマホを取り出すと、即座に父親に電話をかけた。そして、「小雪ちゃんには何も言っていない」と言う父の言質をとりつつ、彼女の言った母親の情報を入手した。
「時間がもったいないですし、観覧車の列に並びながら答えましょうか」
「あぁ……」
そうして、彼女は僕の瞳だけを見つめ、僕に自信のほどを見せつけてきた。
「じゃ、じゃあ母の趣味は?」
「一人旅です」
「ふ、二人の出会った場所は?」
「コンビニでバイトしているときでしたね」
「僕の出産予定日……」
「5月6日。だけど実際は5月18日になりましたね」
「結婚式の……」
「羽田空港。実際はお高級なホテルでしたが」
「じゃ、じゃあプロポーズの場所は」
「横浜、みなとみらいですね。どうですか?」
「……合っているよ。全部合っている」
彼女の自信は果たして本物だったようで、一問も淀みなく答えきった。
僕は彼女の顔をまじまじと見つめた。肉体は違えど、遺影でしか見たことのない母が、眼前でにこやかに笑みを浮かべているのだから……。
「これで分かってもらえましたか?」
彼女は笑みを崩さずにそう問うてきた。
「分かったけど、分からない……」
「次期に教えますよ。私・兼平麻也がこの世界に戻ってきた理由を」
そうこう話している間に、僕らは列の先頭までやって来ていた。
「……ですが、一つだけお願いがあるんです」
乗り込む直前、彼女は僕の前で直立して、背を向けながらそう言った。
「なんだよ……?」
「私をこれからも義妹として扱ってほしいんです」
「それまたなんでだ?」
「昔と身体が違ければ、性格も異なっています。前の記憶を引き継いだ、ただの一般高校生なんです」
「それは……そうかもしれないけどさ」
そうして、彼女は係員に従って徐に観覧車へと乗り込んでいった。反射に映る彼女の顔は、どこか儚い様子が滲んでいた。




