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僕の義妹(マイシスターインロー)は一親等。【長編小説】  作者: 金森 亮
第二章 日常の崩壊

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第5話 義妹との実質初デート。

 帰宅すると義妹が僕のことを出迎えた。エプロンを身に纏って、明らかに先に帰宅していた様子ではなかった。


「おかえりなさい!」

「ただいま帰りました……けど、お前、学校はどうしたんだ?」

「あぁ、通信ですから」

「そうなのか……」

「ですから、暇で暇で仕方なくて……」

「それでこんなに整っているのか」


 義妹は洗濯を筆頭に、前日に溜まった皿の洗浄からリビングの掃除まで、全てをこなしていた。完全なる家政婦の様相を呈しており、僕は堪らなくなってこう告げた。


「なぁ、小雪……」

「暇だからって、そんな自分一人で全部やらなくていいんだからな?」


 そう告げると彼女はキョトンとした顔で「どうしてですか?」と尋ねてきた。


 「どうしてもこうしてもないだろ……」と回答する僕に、彼女は眉間に皺を寄せて理解し得ない様子を見せてきた。


「鹿野家は会社で例えるなら、兼平家に買収された側なんですよ。そんな人間が暇を持っていて良いとは思いません」

「買収って……そんなことないからさ、もっと高校生らしいことしなよ」


 僕の言葉に彼女は天井の一点を見つめて、やがて笑い顔でこう尋ねてきた。


「……じゃあ、一緒に買い出しに行きませんか?」

「高校生の男女が歩幅を合わせて外出するって、実質デートですよね!」

「結構な暴論だな」


 僕は彼女の提案を快諾して、近所のスーパーへと足を運んだ。たかが買い出しなのに、彼女は僕の顔を見ては、舞妓のように小刻みに震えて微笑していた。


「なんだよ……ご飯粒でもついているのか?」

「いいえ。単に嬉しくなっちゃって」

「そんなに人と交流していなかったのか?」

「駿さんはただの人じゃありませんよ。私のお兄さんですから」


 彼女は僕のことを溺愛していた。あの母親から寵愛を受けなかったとも思えないが、それでも彼女は僕に全幅の信頼を寄せていた。


 極端な彼女の姿勢に、僕は何か嵌められているような心持ちがした。

 だが同時に、久しく受けていなかった愛情も享受でき、何とも言えない浮遊感に包み込まれていった。


 買い出しを終えて帰宅すると、早速彼女は晩御飯の支度に取り掛かった。

 余暇なんて概念を剥ぎ捨てた彼女の行動に、僕も我慢できなくなって「手伝うよ」と一声かけた。


「手、切らないでくださいよ」

「分かっているって」


 僕が食材を慎重に洗うと、彼女がそれを慣れた手つきで切り刻んでいった。ちょっとだけ乱雑に、でも手際はよく。

 僕は彼女をどこか母の生き写しのように観察していた。


「……僕にも母親がいたらこんな感じだったのかな」


 自分の想いを吐露すると、彼女は眼下の玉葱で目を潤ませながら、「えぇ、きっと、そうだと思います」と呟いた。


 二人の共同作業で作り上げた夕飯に、案の定両親は大喜びだった。家族で炊飯窯の飯を平らげてしまい、冷蔵庫にあった冷や飯まで取り出して対応する。


 取り分け父親が僕を褒め称えるなんて、高校生になってからは初めての出来事だった。僕はようやっと、この変容した日常が心地のよいものだと知った。


 そんな中で、彼女は僕の飯に食らいつく様子をじっと見つめ、何かに安堵したように鼻息を漏らしていた。兄に対する尊敬の眼差しだと、そう解釈するのがこのときの僕だった。

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