第5話 義妹との実質初デート。
帰宅すると義妹が僕のことを出迎えた。エプロンを身に纏って、明らかに先に帰宅していた様子ではなかった。
「おかえりなさい!」
「ただいま帰りました……けど、お前、学校はどうしたんだ?」
「あぁ、通信ですから」
「そうなのか……」
「ですから、暇で暇で仕方なくて……」
「それでこんなに整っているのか」
義妹は洗濯を筆頭に、前日に溜まった皿の洗浄からリビングの掃除まで、全てをこなしていた。完全なる家政婦の様相を呈しており、僕は堪らなくなってこう告げた。
「なぁ、小雪……」
「暇だからって、そんな自分一人で全部やらなくていいんだからな?」
そう告げると彼女はキョトンとした顔で「どうしてですか?」と尋ねてきた。
「どうしてもこうしてもないだろ……」と回答する僕に、彼女は眉間に皺を寄せて理解し得ない様子を見せてきた。
「鹿野家は会社で例えるなら、兼平家に買収された側なんですよ。そんな人間が暇を持っていて良いとは思いません」
「買収って……そんなことないからさ、もっと高校生らしいことしなよ」
僕の言葉に彼女は天井の一点を見つめて、やがて笑い顔でこう尋ねてきた。
「……じゃあ、一緒に買い出しに行きませんか?」
「高校生の男女が歩幅を合わせて外出するって、実質デートですよね!」
「結構な暴論だな」
僕は彼女の提案を快諾して、近所のスーパーへと足を運んだ。たかが買い出しなのに、彼女は僕の顔を見ては、舞妓のように小刻みに震えて微笑していた。
「なんだよ……ご飯粒でもついているのか?」
「いいえ。単に嬉しくなっちゃって」
「そんなに人と交流していなかったのか?」
「駿さんはただの人じゃありませんよ。私のお兄さんですから」
彼女は僕のことを溺愛していた。あの母親から寵愛を受けなかったとも思えないが、それでも彼女は僕に全幅の信頼を寄せていた。
極端な彼女の姿勢に、僕は何か嵌められているような心持ちがした。
だが同時に、久しく受けていなかった愛情も享受でき、何とも言えない浮遊感に包み込まれていった。
買い出しを終えて帰宅すると、早速彼女は晩御飯の支度に取り掛かった。
余暇なんて概念を剥ぎ捨てた彼女の行動に、僕も我慢できなくなって「手伝うよ」と一声かけた。
「手、切らないでくださいよ」
「分かっているって」
僕が食材を慎重に洗うと、彼女がそれを慣れた手つきで切り刻んでいった。ちょっとだけ乱雑に、でも手際はよく。
僕は彼女をどこか母の生き写しのように観察していた。
「……僕にも母親がいたらこんな感じだったのかな」
自分の想いを吐露すると、彼女は眼下の玉葱で目を潤ませながら、「えぇ、きっと、そうだと思います」と呟いた。
二人の共同作業で作り上げた夕飯に、案の定両親は大喜びだった。家族で炊飯窯の飯を平らげてしまい、冷蔵庫にあった冷や飯まで取り出して対応する。
取り分け父親が僕を褒め称えるなんて、高校生になってからは初めての出来事だった。僕はようやっと、この変容した日常が心地のよいものだと知った。
そんな中で、彼女は僕の飯に食らいつく様子をじっと見つめ、何かに安堵したように鼻息を漏らしていた。兄に対する尊敬の眼差しだと、そう解釈するのがこのときの僕だった。




