第4話 非日常と日常。
そうして4月10日月曜日、同居二日目が始まったわけだが、義妹もとい彼女は、朝っぱらから兼平家に献身しようとしていた。
「あ、おはようございます!駿さん」
「おはよう……朝食作っているのか?」
「えぇ、お父さまから普段、駿さんが朝ごはんを食べないと聞きましたから」
「別に朝ごはんなんていいのに……」
そう言うと、彼女は僕の方に指示棒代わりのゴムベラを向けてこう告げた。
「ダメですよ! 健康第一、食費は二の次です!」
「……別に食費を気にしているわけじゃないけど」
「とにかく、頭に栄養が行き届かないので絶対に朝ごはんは食べてくださいね!」
「はいはい……分かりましたよ」と渋々承諾する僕に、彼女は嬉々している様子を見せた。
一級品の朝食を食べた僕は、早いうちに新年度二日目の学校へと向かうことにした。
「いってらっしゃい」という彼女に、僕は若干の照れ臭さを感じつつも、「いってきます」と言った。この様相は完全に夫婦のそれに近いような感じだった。
地元・名古屋の朝は早く、僕は今日もまた短い両数でごった返す列車に呑まれながら、無事に市の郊外へと抜けていった。
駅を降りてしばらく歩いていると、背後から僕より微妙に足早に歩く音がした。振り返るとそこにいたのは、僕の数少ない朋友である箕島隼人の姿があった。
「よう、おはよう、駿」
「おはよう。今日も隼人はイケメンだな」
「それ……面と向かって言われるとかなり恥ずかしいんだけど」
「馬鹿、自分の才能ぐらい素直に認めればいい」
すると隼人は僕の方を見てほくそ笑み、僕のことをつらつらと語ってきた。
「……本当、駿って否定しないよな。なんでだ?」
僕の矜持の一つに、“他人を否定しないこと”があった。所以は単純で、自分の存在を否定されたくなかったからだ。
「まぁ、そもそも否定するにはそれだけの理由が必要だしな」
「……答えになっていない気もするけど、確かに」
母が死に絶え父が見放す家庭で、僕の生きる意味はいまなお微塵も感じられていなかった。自分自身がこれなのだから、他人にまで否定されたらそれこそ生きる資格が失効してしまのだ。
「なにはともあれ、自分らしく生きればいいんだよ」
「そうか。ありがとうな。やっぱりお前は俺の大大大親友だな」
そう言って、彼は左腕で僕を優しく包みこんだ。僕の生きる価値は、きっとここに介在していた。




