第17話 血縁が全てなんだと。
「……自分を殺してでも、僕と三ヶ月だけ会うことを選んだんだよな?」
彼女の去り際、僕は彼女にそう尋ねた。僕に残った最後の疑問だった。
「えぇ、そういうことになります」
「僕には……ちょっとよく分からないんだ」
「なにがですか?」
「生きることより、僕の前で死ぬことを選んだわけだよ……」
すると、彼女は頭に「一言いいですか?」と言って最後にこう呟いた。
「好きでも嫌いでも、血縁に変わるものはないんですよ」
「……それがよく分からないんだ」
「つまり、駿さんだって嫌いでも、虎之介さんに代わる人はいないんです」
僕はなかなか煮え切らずにいた。
「結婚すればいいんじゃないのか……?」
「夫婦は離婚したらそこでお終いです。元はただの他人ですから」
「それはそうかもしれないけどさ……」
「縁を切っても切れないのが血縁なんです。私は駿さんと血縁があったこと、誇りに思っていますから」
彼女はそう言うと目を瞑って笑い、一雫の熱いものを流していった。
5月6日日曜日、今朝の僕は父親と言の葉を紡ごうと思っていた。新聞紙片手に堂々と椅子に腰掛ける父は、僕の入る隙を与えてくれない。だが、そこは僕も折れなかった。
「……なぁ、父さん」
「あぁ、なんだよ?」
「そ、そっちは上手くやっているのか?」
「お前が心配することはねぇよ。用が済んだらどっかいけ、しっし」
「……本当に最悪だな」
「最悪な息子に最悪な父ってか、ははは」
僕は朝ご飯も食べずに自室に籠る。外から彼女の、「駿さん、食べないんですか?」という声が聞こえる。一言「うん」とだけ返事をし、独り言を呟くのだった。
「……血縁なんて、目に見えないものをどうして信じるんだよ」
僕にとって血縁というものは、もはや形骸化したものに過ぎなかった。血縁なんてものを彼女が信じる意味が、今日もやっぱり知れないのだった。
5月8日火曜日、隼人と共に帰路を歩んでいたときのことだった。菩薩のような顔をして正気を失う僕に、隼人はこんな言葉をかけてきた。
「何があったか言ってみろよ」
「……母親と再会したけど、母親は余命二ヶ月だし、父親には煙たがられている」
「そうか」
隼人はにっこりと笑みを浮かべると、僕にこんな言葉で支柱となってくれた。
「辛いことは共有してナンボだ」
「……そうなのかもな」
「だからさ、友達として、親友として、手伝えることはなんでもするから、な?」
「悪いな。無理にそう思わせて……」
「お前が生きていないと、俺も生きている心地がしないもんでな」
僕は彼女に対する血縁の感情が、段々と薄められて半透明になっていた。
「……血縁関係なんか、信じるほうがアホくさいよな」
「へ……?」
「もっと大切なものがある……そうに違いないんだよ」
僕は断言することにした。彼女の指針は完全に間違っているのだと。
そして、唯一彼女の正体を知っている僕には、血縁という呪いから目を覚めさせる使命があるのだと……。




