第14話 題名の思案。
4月29日土曜日、晩になって、彼女はいつも通り僕の部屋を訪問していた。
「……今日はやることもなければ、話すこともないな。なにか話題でもあるか?」
「実は……私も今日はこれと言った話を持ち合わせていなくて」
彼女は「えへへ……」と言って、その場をやり過ごそうとする。
「じゃあ、一緒に短編小説でも考えてくれないか?」
「あぁ、それはいいですね! 私の独創性をふんだんに混ぜ込んでください!」
「おう、その調子だな」
そんな流れで僕はパソコンを起動して、彼女と共に一篇の小説を書き上げることにした。
「小雪はどんな小説が書きたい?」
「そうですね……高校生のカップルが駆け落ちする!とかですかね」
「い、いきなり重めな題材だな……」
「違うのがいいですか?」
「もっとライトなのないか……?」
彼女は「うーん」と頻りに唸って、何分も思案し続ける。
「答えはでたか?」
「……名案が思いつきましたよ。私たちのことを書けばいいんです」
「義妹に転生した母親と生活する話……ってことか?」
「はい!」
たしかに、僕らの奇想天外な出会いは、小説に起こすには最適だった。
「いいな。タイトルはどうする? 僕と義妹のアバンチュール……とか?」
「……既存作に似たようなのありますし」
「そうか……」
そうして二人して頭を巡らすも、中々いい答えが出てこない。そこで僕は、どうにかして気分を一変しようと考えた。
そして血迷った僕は、意味もなく彼女の肩にポンと両手を置いた。彼女は瞳をそのままに、ただ一言「うわっ」とだけ呟いた。
次に彼女が取った行動は、叱責でもなければ呆れでもない、ただ僕の頭を撫でる行為だった。
「……急にスキンシップしたところで、全然動じないんだな」
「そりゃあ、自分の子供に触られたぐらいで敏感になる方が母親失格ですよ」
「母親失格……」
彼女の胸の内は知らない。だが、どうしても気になった僕は、彼女にこう告げておくことにした。
「……産まれてすぐ死んだからって、小雪は母親失格なんかじゃないからな」
「そう言ってもらえると、救われる自分もいます。ですが……失格は失格ですから」
合併症という不慮の事態だったにも関わらず、彼女は自責の念を感じていた。僕は彼女を窮地から救いたくなった
触られても動じないと断言した彼女に、僕は勢いよく抱きついた。
「大丈夫……だから。これからは僕が傍にいるからさ」
「そう言われてしまうのが、母親失格たる所以なんですよ……」
「それなら、こう言われるだけ愛されているって解釈してよ。それが僕の本望だからさ」
「そう……ですか」
すると、僕の脳内にある言葉の羅列が浮かんできた。
「……あ、これだ」
「な、なんですか?」
―――「僕と義妹は一親等」っていうのはどうだ?―――
「義理なのに一親等……。わぁ、とても素敵です!」
「わりといい題名だと思うんだ」
「これで駿さんも、家族愛の真髄に気づいちゃうかもしれませんね!」
「さぁ、それはどうかな」
そんなこんなで、僕らはいままでの流れを日記形式で記録することにした。
「私たちの生きた証ですね」
「そうかもな。ちょっとおかしなノンフィクションだけどな」
これがいずれ莫大な価値を生み出すとも知らずに淡々と……。




