第12話 義母との対話。
4月19日水曜日、帰宅すると、今日は彼女が一人で買い出しに行くと言うので、僕はお言葉に甘えて家でくつろいでいた。
すると、彼女が出ていってすぐに、自宅の鍵が開く音がした。この時間に帰宅する家族なんておらず、僕は一瞬犯罪の臭いを嗅ぐも、その正体は義母だった。
「駿くん、ただいま」
「お、おかえりなさい、朋美さん」
「駿くんも懲りないわね……お義母さんでいいのに」
「す、すみません……」
「まぁ、無理強いはしないんだけどね」
そう言うと、義母は寂しげな笑顔をこちらに覗かせる。僕は二人きりになったこの機会を、どうにか活用したかった。
「あ、あの」
「ん?」
「小雪さんとは……その、良好な関係を築かれているのですか?」
「なにかあの子から聞いたのかしら」
「い、いえ……ただ、なにか隠しているような素振りがあったもので」
義母は二杯の麦茶を注いで座り、斜めを向いてため息を一つつく。
「……駿くんも分かると思うけど、あの子は本当に賢い子なの」
「そうですね」
「だから……私と喧嘩してもすぐに論破してしまうし、学校の授業もつまらないって通信の学校に通っているの」
「あぁ、それで……」
彼女がそこまでして勉学に励んでいるとは知らず、僕は少し驚愕する。
「どうしてそんなに勉強熱心なんですか?」
「夢を叶えるため……らしいけど、詳しいことはなにも言ってくれないわ」
「夢ですか……」
彼女にとっての夢。恐らくは“僕との対面”という答えになる。そこに学が伴う理由を考えると、“父と義母を巡り合わせるため”の手段を思案するためだろう。
そこで僕は義母にこんな問いかけをすることにした。
「そういえば、父とはどうやって知り合ったんですか?」
「たまたま虎之介さんが勤め先の警備員さんだったのよ。運命なのかしらね」
「……それ、小雪さんに紹介された職場だったりしませんか」
「あ、聞いたんだ」
義母は目を細めてにこっと微笑む。
「あの子には感謝しかないわ。暗がっていた人生に、華が添えられたんだから」
「そうですか。それは良かったですね」
「でも……だから分からないの」
義母はまたもやため息を漏らして、僕に胸の内を晒す。
「なぜか、再婚の話になってから、小雪には距離をとられているのよ」
「それは、父との時間を大切にしてほしいからじゃないですか?」
「そうなのかしらね……」
「えぇ、きっと」
きっとそんな訳がなかった。彼女には未だに父が旦那であるという矜持があった。
僕と出会うために再婚させたはいいが、それは多分、自然と彼女の心を荒ませてもいた。
「小雪さんには、思っている百倍、優しくしてあげてください」
「それはどうして?」
「小雪さんには父とお義母さんの幸せのために、自分を殺そうとしている面があります」
「……本当に仲が良くなったのね」
「お陰様で」
僕はほんの少し笑い顔を届けて、義母にも笑顔をもたらした。
「あの子とこれからも、末永くよろしくね」
「はい。もちろんです」
僕と義母は、そんな漠然とした約束を交わした。どこか、彼女を幸福にするという権限が、僕に委任されたような気がした。
今の僕は、実母を悲痛から救い出す義務感を抱えていた。それが母への恩返しであって、僕の納得のいく選択でもあった。
この瞬間、僕はアバンチュールを、これからも継続させると誓うのだった。




