菜園番の破戒僧と金の輪っか
第9話:菜園番の破戒僧と金の輪っか
霧嶽山の文殊院に身を寄せた大八だったが、厳しい戒律と静寂に包まれた寺の暮らしが、根っからの酒好きで天衣無縫な男の肌に合うはずもなかった。
師匠の目を盗んでは境内で隠れ酒を煽り、注意してきた修行僧を叩きのめし、果ては酒の勢いで寺の立派な看板を拳で叩き割る始末。相次ぐトラブルに業を煮やした寺側は、ついに大八を破門とすることを決定した。
だが、大八の豪快な気性を根っからの悪ではないと見抜いていた長老は、都にある大東寺への紹介状をそっと手渡すのだった。
「やれやれ、これで肩の荷が下りたぜ」
都へ到着した大八だったが、大東寺で与えられた職務を聞いた瞬間、その顔が激怒に歪んだ。
「……菜園番ぁ!? この俺に野菜の世話でもしてろってのか! 舐めやがって!」
そんな下っ端の雑用などやっていられるかと、大八が案内役の老法師に掴みかかろうとした――その時である。
「大人しく精進なされ」
老法師が静かに手を差し伸べると、大八の頭部にズシリと重い金属の感触が走った。気がつけば、その頭上には禍々しい金色の「輪っか」がガチリと嵌められていたのだ。
「ああん!? なんだこの輪っかは! 外しやがれ!」
大八が力任せに引っ張るが、びくともしない。嫌気がさした大八は作業を突っぱね、菜園の真ん中で豪快に寝転がって怠け始めた。
その瞬間――老法師が静かに念珠を繰り、呪言を唱え始める。
『――呪言唱……』
「ぐ……っ!? あがぁぁぁっ!?」
突如、頭上の輪っかが強烈な力で締め上げられた。頭骨が叩き割られるような激痛に、さしもの巨漢・大八もその場に転がり、のたうち回る。
「痛え! 痛でぇぇっ! 頭が割れるッ!」
「これ以上怠け、あるいは暴挙を重ねれば、その輪が頭蓋を砕きましょう。真面目に務めなされ」
法師が呪言を止めると、嘘のように痛みが引いていく。
荒い息を吐きながら、冷や汗みずくで地べたに這いつくばる大八。豪放磊落な巨漢に、生まれて初めて「絶対に抗えない天敵」が現れた瞬間だった。




