温酒の一閃
第80話:温酒の一閃
反菫山連合軍の前に立ちはだかった最初の関所。
その門楼を守っていたのは、二メートルを超える巨躯に身を包み、巨大な『斬馬刀』を易々と片手で振り回す大男――華山雄太郎であった。
連合軍に先駆けて功をあせり、突撃を仕掛けた何田進の軍勢は、華山の一撃のもとに瞬く間に崩壊。惨乱たる屍の山を築いて返り討ちに遭っていた。
「ハハハッ! 有名無実の連合軍と聞いて呆れるわ! 我が斬馬刀のサビになりたい奴から前に出よッ!」
関門の上から嘲笑する華山。その挑発に激怒し、先陣を切って躍り出たのは葦ヶ原軍の誇る怪力無双――大八であった。
「抜かせ小僧ッ! 俺の鉄棒で叩き潰してやる!」
大八は巨大な鉄棒を振るい、猛然と華山へと躍りかかる。
しかし――華山の振るう斬馬刀の威力とリーチは、大八の想像を遥かに超えていた。
重鉄と刃が激突する凄まじい衝撃音。
渾身の打撃を受け止められた大八は、斬馬刀の怒濤の連撃に押し込まれ、重傷を負ってまさかの敗退を余儀なくされてしまったのだ。
「そんな……あの大八さんが敗れるなんて……!?」
葦ヶ原軍に走る戦慄と絶望。連勝の勢いを挫かれ、連合軍の陣営全体が重い静寂と怯みに包まれる。
その時――静かに歩み出た男がいた。
緑の衣を纏い、胸元の見事なヒゲを風になびかせる徳田軍の傑物――関山長助である。
「盟主殿。某が、あの華山雄太郎の首を揚げて参りましょう」
名もなき義勇軍の男の申し出に、諸侯からは疑問の声が上がる。だが、関山は出陣の前に差し出された温かい酒杯を固辞し、静かに不敵な笑みを浮かべた。
「酒は……戻ってからいただきましょう。酒が冷める前に、片付けて参ります」
大薙刀を背に構え、一人関門へと向かう関山長助。
華山雄太郎が斬馬刀を上段に構え、咆哮とともに斬りかかったその瞬間――。
――サクッ!!
暗闇を切り裂いたのは、たった一筋の閃光であった。
関山長助の大薙刀が一閃。交差した一瞬の後に転がったのは、巨大な斬馬刀とともに地へ落ちた華山雄太郎の首級であった。
温かい酒の湯気が揺れるわずかな間。
一太刀で関所を攻略してみせた関山長助の圧倒的な武勇に、連合軍の将兵たちは言葉を失い、やがて地鳴りのような歓声を上げたのだった。




