桃園の熱風と、三人の誓い
第77話:桃園の熱風と、三人の誓い
都の喧騒から遠く離れた、北方の静かな山あいの村。
そこに、徳田玄人という一人の青年が暮らしていた。
徳田は貧しく、藁で編んだ「むしろ」を市で売っては、かろうじてその日の生計を立てる質素な生活を送っていた。
しかし――彼には誰にも明かしていない、果てしなく尊い血筋があった。徳田の祖先は、かつてこの国を建国した「第1皇帝」の直系の子孫であったのだ。
ある日の夕刻、徳田がいつものように村の酒場へと足を運ぶと、奥の席で熱っぽく酒を酌み交わす二人の男の姿があった。
ひとりは、胸元まで届く見事なヒゲを蓄えた義気あふれる男――関山長助。
もうひとりは、獲物を狩る鋭い眼光を持ち、大柄な体躯を揺らす猟師――張山翼。
「酒がまずくて叶わん……! 朝廷の暴虐も、菫山卓の勝手気ままも、もう限界だ!」
「まったくだ、関山さん。民は重税と兵役に苦しみ、明日の飯すら喰えねえ。こんな腐りきった国、俺の弓と槍でひっくり返してやりてえよ!」
杯を叩きつけ、朝廷への不満と憤りをだらだらとぶちまける二人。
その殺気立ったテーブルへ、徳田玄人は静かな足取りで近づき、酒瓶を手にそっと腰を下ろした。
「……お二人さん。その鬱憤、僕にも一杯お裾分けしてくれないか」
突然現れた徳田に、関山と張山が不審な視線を向ける。だが、徳田の瞳に宿る澄み渡った大志と、どこか人を惹きつけてやまない高潔な気品に、二人は即座に言葉を失った。
「僕もずっと考えていたんだ。第1皇帝の血を引く者として……この荒れ果てた国と民を、どう救うべきなのかを」
建国者の血脈という衝撃の告白、そして国を憂う徳田の熱い言葉。
酒場の片隅で巡り逢った三人の英傑の胸に、時代を揺るがす情熱の火が灯った瞬間であった。




