散りゆく霹靂火
第65話:散りゆく霹靂火
闇と悲鳴が錯綜する雨の夜襲。
暗闇の中でブウン……ブウン……と不気味な風切り音を響かせ、重鉄の球体を豪快に振り回す影があった。
大葉に心酔する少年・石田宝。彼が手にしていたのは、一撃で骨を砕き肉を穿つ極悪の打撃兵器――『流星錘』であった。
「大葉さんの世界を……僕の居場所を邪魔する奴らは全員叩き潰すッ!」
狂気と殺意を爆発させる石田の前に躍り出たのは、かつて朝廷の官兵を束ね、葦ヶ原軍でも随一の怪力を誇る豪傑――秦野であった。
「小僧が……図に乗るなよッ!」
巨大な武器を構え、石田を押し潰さんと踏み込む秦野。
しかし――踏み出した足が、ガクリと惨めな悲鳴を上げて崩れかけた。
「ぐっ……!? 高熱が……目が、霞む……っ!?」
あまりにも残酷な格差。
現地を熟知する大葉軍は、湿地帯の特効薬や防虫対策を徹底して万全のコンディションで夜襲を仕掛けていた。対する秦野の身体は、すでにマラリアの病魔に深く蝕まれ、立っていることすら奇跡という状態だったのだ。
「フハハハッ! マラリアで目も見えていないくせに、格好つけるなよリア充どもがッ!」
嘲笑とともに繰り出される、音速の流星錘。
視界が遮られ、体幹を失った秦野に、かつての圧倒的な武力は残されていなかった。
一合、二合……重鉄の打撃をかろうじて受け止めるのが精一杯の秦野。
そして、わずか十合目――。
――ガカァァァンッ!!
「ぐあぁぁぁっ……!?」
暗闇を切り裂く凄まじい破壊音。
石田の解き放った流星錘が秦野の喉元を深々と打ち砕き、かつて「霹靂火」と恐れられた猛将の巨躯が、南霧郷の冷たい泥濘へと激しく叩きつけられた。
「秦野さん……!? 嘘だろ……あの秦野さんが……たった十合で……!?」
頼れる猛将の悲惨な戦死。
病魔の絶望と、石田宝の狂気あふれる猛攻の前に、葦ヶ原軍の夜陣は完全に崩壊の危機へと叩き落とされたのだった。




