居場所を賭けた夜襲
第64話:居場所を賭けた夜襲
雨と濃霧が覆い尽くす南霧郷の夜。
マラリアと敵の奇襲でボロボロになった葦ヶ原軍の陣営に、忍び寄る影があった。
大葉の側近として絶大な信頼を寄せられる少年――石田宝である。
元の世界での石田は、学校に馴染めず部屋に引きこもりがちな二年生だった。
勇気を振り絞って参加した林間学校で、クラスメイトたちから投げかけられた心ない酷評。
『学校にも来ないくせに、林間学校の時だけ来んなよな』
『ハブられて当然だろ、アイツ』
クラス中に嘲笑され、絶望の縁にいた石田を暗闇から救い出したのが、革命を掲げる大葉であった。
大葉は石田の孤独を否定せず、その手をとって「お前の居場所はここにある」と居場所を与えてくれたのだ。
(大葉さんは……僕を人間扱いしてくれた。僕に生きる意味をくれたんだ……!)
石田にとって、大葉の作る「誰もが平等な世界」こそが唯一の希望であり、大葉への心酔は己の存在理由そのものであった。
(あの葦ヶ原の連中……あいつらも学校の『リア充』どもと同じだ! 大葉さんの理想を邪魔させるものかッ!)
暗闇の中、憎悪と忠誠に瞳をギラつかせた石田が、無音の弩を構えて手勢に手信号を送る。
――シュシュシュッ!!
静寂を切り裂き、葦ヶ原軍の無警戒な幕舎へ注がれる黒い矢の雨。
「敵襲ぅぅッ! 夜襲だッ!!」
悲鳴と怒号が夜の湿地帯に響き渡る。
マラリアで傷つき倒れかけた仲間たちへ、自分の居場所を賭けた石田宝の凄惨な決死行動が襲いかかったのだった。




