庭先の暴れん坊と半年間の師弟
第6話:庭先の暴れん坊と半年間の師弟
都を逃れ、篁郷の山あいに差しかかった頃――大野進は、ある豪農の屋敷で足を痛め、束の間身を寄せることとなった。
その屋敷の一人息子・篠田進は、近郷近在に知れ渡った暴れん坊だった。
上半身に鮮やかな青の刺青を躍らせ、手に持った三節棍をぶんぶんと振り回しては、身内の用心棒たちをなぎ倒して誇らしげに笑っている。
「どうだ旅の御仁! 俺の武芸は! このあたりの奴らじゃ束になっても敵わねえんだ!」
庭先で自慢げに胸を張る若い篠田を、大野は縁側に腰掛けたまま、静かに見つめていた。
「……技は華やかだが、筋が悪い。本物の戦場なら、最初の三息で首が飛ぶぞ」
「なんだと……!? 落ち武者風情が、ぬかすな!」
頭に血が上った篠田が、鋭い踏み込みとともに棍を繰り出す。
――次の瞬間。
ドカンッ! と鈍い音が響き、篠田の巨躯が庭の砂利の上に転がっていた。
何が起きたのかすら分からない。大野が手にした拾い物の木棒が一筋走り、篠田の喉元目掛けてピタリと止まっていた。
「……参ったか」
「あ……あっ……!」
篠田の額から、冷や汗がポタポタと落ちる。圧倒的な実力差。本物の「近衛師範」の威圧感に、若者のプライドは一瞬で粉砕された。
篠田はそのまま地に頭を擦り付けた。
「お師匠! 俺に……俺に本当の武芸を教えてください!」
それから半年。
篠田の呑み込みは驚くほど早かった。元より人外の骨格と筋の良さを持っていた若者は、大野の叩き込む近衛十八般の武芸を、乾いた砂が水を吸うように吸収していった。
訪れた旅立ちの朝。
「もう、お前に教えることは何もない」
旅支度を整えた大野は、立派な武芸者の構えを身につけた篠田の肩を、力強く叩いた。
「お前はもう、ただの暴れん坊ではない。その力を、いつか正しい道のために使え。……免許皆伝だ」
「お師匠……っ!」
深々と頭を下げ、涙を拭う篠田を残し、大野は振り返ることもなく再び流浪の旅へと消えていった。




