都を追われる忠義の拳
第5話:都を追われる忠義の拳
恵太が落とし込まれたこの時代――天下は、第8代皇帝の治世にあった。
だが、その宮廷の影で巨悪として蔓延っていたのが、帝の最側近・高田修司という男である。
元は街の街娼やゴロツキと変わらぬ無頼漢でありながら、天才的な「蹴鞠」の腕一本で帝の寵愛を射止め、異例の出世を遂げた根性の捻くれた悪漢であった。
「おい、酒だ! 宮廷の一番高い酒を樽ごと持ってこい!」
権力を握った高田の邸宅では、連日連夜、常軌を逸した宴が催されていた。
奪い取った金銀財宝を惜しげもなく散らかし、泣き叫ぶ市井の女たちを侍らせ、酒池肉林の限りを尽くす。帝の威光を笠に着たその暴政に、都の誰もが息をひそめ、顔を背けていた。
――だが、その悪政の刃が、ついに一人の男へと向けられる。
禁軍の棒術師範・大野進。
かつて大野の父親は、警察職官としてゴロツキ時代の高田を捕らえ、牢にぶち込んだ過去があった。
(あいつが……あの高田が、禁軍の総帥にまで上り詰めるだと……!?)
高田が過去の恨みを執拗に忘れず、己や一族への報復の機会を伺っているという噂は、すぐに大野の耳にも届いた。無実の罪を着せられ、一族郎党処刑されるのは火を見るより明らかだった。
「誇りも名誉も、ここにはもう無い……!」
深夜。大野は固く結んだ荷物を背負うと、長年勤め上げた禁軍の道場を後にした。
追手が迫る気配を感じながら、彼は暗がりの中、冷たい雨の降る都から静かに逃亡したのだった。




