軍師と豪傑、闇を下る
第4話:軍師と豪傑、闇を下る
伏魔殿の扉から解き放たれた閃光――その数分前へと、時は遡る。
林間学校の肝試しは、順調に進行していた。
恵太とゆきの組が闇の中へ姿を消し、現場が騒ぎになるまでには、まだわずかな猶予がある。その間にも、生徒の列は淡々と夜の山道へ吸い込まれていた。
「次、黒木・呉原ペアねー。いってらっしゃい」
引率教師の呑気な声に背中を押され、黒木葵と呉原智也は懐中電灯を手に踏み出した。
「な、なあ黒木……本当に俺、こういうのダメなんだけど……」
「呉原、声が大きい。脅かされる前から怯えてどうするのよ」
「いや、暗いのが苦手なだけで……お化けとかは別に……」
「じゃあ何が怖いのよ」
「純粋に、足元が見えないのが怖い」
頭脳明晰で口も回る智也だったが、こと夜の山道においては、ただの運動音痴な中学生に過ぎない。体育の成績は学年最下位を争うレベルだ。
対する葵は、運動部でもないのに斧を軽々と振り回すほどの怪力と体力を誇る。暗闇の山道など意にも介さず、ずんずんと突き進んでいく。
「呉原、足元。木の根が出てるから気をつけなさいよ」
「わ、分かっ――」
言い終わるより先だった。智也の足が、濡れた落ち葉に隠れていた木の根を盛大に引っかける。
「うわっ!?」
前傾姿勢のまま倒れ込む智也。咄嗟に伸ばしたその腕を、葵が強引に掴み上げた。
「危な――」
だが、その持ち前の怪力が仇となった。
小柄な智也を引き戻そうと力任せに引っ張った瞬間、葵の重心がバランスを崩す。二人分の体重が一気に狭い山道の端へと集中した。
――ズズッ、と足元の土砂ごと斜面が崩落する。
「うおっ!?」
「黒木ぃぃぃっ!?」
繋いだ手を離す暇もなく、二人はもつれ合うように夜の斜面へと転がり落ちた。
木の枝がジャージを打ち、土煙と悲鳴が闇に交錯する。
そして――。
どれほどの時間が経っただろうか。葵がゆっくりと薄目を開けた時、そこに広がっていたのは、見慣れた林間学校の山林ではなかった。
「……なに、ここ」
すぐ隣では、智也が土下座のような体勢で突っ伏したまま呻いている。
「痛ででで……黒木、お前重い……って、それよりここ、本当にどこだよ……」
体を起こし、二人が周囲を見回す。
鬱蒼とした巨木群の先に見えたのは――異国風の怪しい集落と、その奥に不気味に佇む、砦のような巨大な建造物だった。




