帝の虜と、勝ち取られた勅書
第59話:帝の虜と、勝ち取られた勅書
夜の静寂に包まれる、都一番と謳われる華やかな楼閣。
その最上階の特別室に、極秘裏に忍び込んでくる一人の男がいた。この国の頂点に君臨する絶対者――「皇帝」その人であった。
皇帝の心を完全に虜にしていたのは、都一番の芸妓として浮世名を馳せる山下弓枝の、息をのむほどの美貌と気品であった。
元の世界で保健室の教諭として生徒たちの心に寄り添ってきた山下は、大人の包容力と知性で、孤独な皇帝の心を優しく解きほぐしていく。
「弓枝……今夜も美しいな。そなたの望むものなら、余は何でも叶えてやろう」
甘い吐息とともに囁く皇帝。その最高のタイミングを見計らい、山下は潤んだ瞳で静かに、しかし毅然と語りかけた。
「陛下……私にひとつだけ、お願いがございます。今、各地で暴れる紅巾の乱よりも恐ろしいのは、都で私腹を肥やす高田修司らの欺瞞にございます」
「なに……? 高田が……?」
「葦ヶ原に集う若者たちは、決して朝廷に牙をむく野盗ではございません。無実の罪を着せられながらも、国家の平穏を願い、高田らの不義と戦っているに過ぎないのです。どうか……彼らに『招安(無条件の赦免)』のお許しを賜りたく存じます」
山下は密かに懐から取り出した、恵太たち108人の真の誓約書と、高田らの不正を告発する連名状を皇帝の手へと手渡した。
都一の美女からの命がけの直訴、そして提示された確固たる真実。
高田らの嘘を見抜いた皇帝は、惜しみない愛おしさを込め、その場ですぐさま『無条件赦免と朝廷正規軍への任命』を記した勅書に、帝の玉璽を強く押したのだった。
「届いたわよ、恵太くん……! あなたたちの勝ちよ」
山下先生の完璧な交渉により、ついに葦ヶ原砦は「反乱軍」の汚名を打ち払い、朝廷の認める「正規軍(官兵)」としての勝利を勝ち取ったのだった。




