宿敵の釈放と、都の花魁
第58話:宿敵の釈放と、都の花魁
都から押し寄せてきたのは、高田修司と祭田京太郎が率いる「二万」という規格外の官軍大集団であった。
しかし、天降の石碑の下に百八人の頭領が完全結集した葦ヶ原砦の戦力は、すでに一国の軍隊を遥かに凌駕していた。
智也の盤石な陣形と、関口勝や國府田、宗一郎、武藤ら最強の猛者たちによる怒涛の反撃。
二万の官軍は惨敗を喫し、葦ヶ原軍は見事に陣頭に立っていた高田修司と祭田京太郎の二人を生け捕りにすることに成功したのだった。
「長谷川先輩の無念……そして冤罪の恨み! 高田修司、ここで首を撥ねてやるッ!」
長槍を突きつけ、激しい憎悪を露わにする林田宗一郎。
誰もが高田の即刻処刑を当然と考える中――制止に入ったのは、総首領の恵太であった。
「待ってくれ、宗一郎……! ここで高田を殺せば、俺たちはただの『冷酷な野盗』として永遠に朝廷から追討され続ける。……高田修司、祭田京太郎。お前たちを無条件で都へ送り返す」
「恵太、貴様正気か!?」と詰め寄る宗一郎らを抑え、恵太は二人を解放し都へと返した。
生かして返すことで、朝廷上層部へ「葦ヶ原は反乱ではなく、ただの正義と赦免(招安)を求めている」という無言の圧力をかける決断であった。
しかし――恵太はただ手をこまねいて生還させたわけではなかった。
同じ頃、都の喧騒の中に潜む一人の影があった。恵太から極秘の密命を受けた青山燕である。
燕が向かったのは、都で一番の花魁(芸妓)として浮世名を馳せる美しき館。
そこにいたのは――元の世界で誰もが頼りにしていた保健室の教諭、山下弓枝であった。
「……久しぶりですね、山下先生。恵太さんからの『密書』を携えて参りました」
「燕くん……? ふふっ、保健室の先生が今や都一番の芸妓だなんて笑えるでしょう。でも……恵太くんたちが真の『赦免』を得るための手助けなら、喜んで一肌脱ぐわ」
朝廷の最高権力者(皇帝)と直接繋がる山下弓枝を介し、高田らの妨害を飛び越えて都の真のトップへ「直訴」を届ける――!
表の解放と裏の極密交渉。恵太と智也の描いた「二重の招安作戦」が、密かに都の闇を動かし始めていた。




