山裾の商団と、我孫子ゆきの恩返し
第34話:山裾の商団と、我孫子ゆきの恩返し
正面突破は拒まれ、潜入した葵と加藤も捕虜となった。黒竜ヶ丘の万願寺は、まさに落城不能の難攻不落の要塞と化していた。
葦ヶ原砦の陣営に焦燥が広がる中、万願寺の膝元である黒竜ヶ丘の麓を、一つの賑やかな商団(商人グループ)が通りかかる。
荷車を押し、商人の群れを率いていたのは――元の世界で、クラスの隅で目立たずに過ごしていた女子生徒、我孫子ゆきだった。
林間学校のあの肝試しの夜。暗闇の山道で転び、置き去りにされそうになっていた我孫子を、優しく手を引いて救い出してくれたのが恵太だった。
異世界へ飛ばされた後、持ち前の細やかな気配りと商才で商人グループの信頼を得ていた我孫子は、この地で恵太たちが万願寺と交戦し、苦戦を強いられている事実を知る。
(恵太くん……あの夜、私を助けてくれた恵太くんが困っている……!)
我孫子は躊躇することなく、商団を率いて万願寺の正門へと向かった。
荷車に積み込まれているのは、芳醇な匂いを放つ極上の酒樽の数々。
「これより先の街へ向かう商人です。長旅の無事を祈願し、万願寺の皆様に上好みの銘酒を寄進・販売に参りました」
連日の葦ヶ原砦との戦いに勝利し、いい気になって油断しきっていた万願寺の私兵や僧兵たち。
「へっ、景気のいい商人どもだ。どれ、酒を見せてみろ!」
我孫子の巧みな笑顔と交渉力により、商団の荷車は怪しまれることもなく、万願寺の強固な陣門をあっさりと潜り抜けていく。
要塞の「内側」へと潜入を果たした我孫子は、僧兵たちの目を盗み、静かに懐から一通の合図の文を取り出した。
すべては、恵太の恩に報い、捕らわれた仲間と葦ヶ原砦を勝利へ導くための、決死の賭けであった。




