九天玄女の神託と、授かられし三巻の天書
第30話:九天玄女の神託と、授かられし三巻の天書
追手の怒号と篝火の影を振り払い、山奥にひっそりと鎮座する古い廟へと滑り込んだ恵太。
木戸を閉ざし、暗闇の中で泥のように重い身体を横たえると、極度の緊張と疲労から、恵太は吸い込まれるように深い眠りへと落ちていった。
――そこは、雲海が広がる神聖な鏡のような世界だった。
「立ちなさい、恵太」
どこか優しく、しかし凛とした声が響く。
眩い光の中から現れたのは、絢爛豪華な羽衣を纏った神仙――九天玄女であった。
「九天玄女様……? 俺は、一体……」
「恐れることはありません。汝ら百八人の魂は、かつて伏魔殿に封じられ、解き放たれた『百八の魔星』の転生した姿なのです」
九天玄女は静かに微笑み、驚愕に固まる恵太へ朗々と語りかける。
「過ちによって現世へ撒き散らされた魔星たちは、悲劇と不条理の運命に翻弄されている。だが、嘆くことはありません。天界へと還る道は、残されています」
「天界へ……元の世界へ帰れるんですか!?」
「ええ。しかし、そのためには現世に留まり、散らばった百八の星々を束ねねばなりません。虐げられる民を助け、義を重んじ、己の背負った罪を償うのです。さすれば、巡り合いの扉は再び開かれるでしょう」
九天玄女は手にしていた三巻の錦の巻物を、恵太の胸元へとそっと押し当てた。
「これを授けます。星々を導く道標としなさい――」
――はっと息を呑み、恵太は目を覚ました。
廟の隙間から朝日が差し込み、静寂が広がっている。追手の気配は綺麗に消え失せていた。
(夢……だったのか……?)
汗に濡れた胸元をふと撫で下ろした恵太の手が、硬い異物の感触を捉える。
懐を探り、引っ張り出したのは――黄金の糸で刺繍された、夢の中で受け取ったはずの『三巻の天書』であった。
「……夢じゃ、ないんだ」
天書を両手で強く抱きしめ、恵太の瞳に迷いの色が消える。
己の罪、仲間たちの運命、そして果たすべき使命。すべてを受け入れた少年の顔には、百八の星を率いる「真の頭領」としての覚悟が宿っていた。




