痺れ酒の宿と、恩師の包丁
第22話:痺れ酒の宿と、恩師の包丁
かつての恩師・服部との思いがけない再会に胸を撫で下ろした武藤松生。だが、この怪しげな山小屋には、恐ろしい裏の顔が隠されていた。
服部はこの異世界で生き延びるため、夜な夜な立ち寄る旅人に痺れ薬入りの酒を振る舞い、眠りこけた客を殺害しては、その肉を饅頭の具にして売り捌くという狂気の商売に手を染めていたのだ。
そんな惨劇を知る由もない武藤は、出雲での仇討ちと長旅の疲労、そして何より大好物の酒の匂いに抗えず、服部の差し出した杯を豪快に煽ってしまう。
「先生……やっぱりこの世界の酒は腹に染みるぜ……」
「そうかい……たくさんお飲み、松生くん」
盃を重ねるうちに、強烈な睡魔が武藤の意識を刈り取っていく。
ドカンと豪快に机に突っ伏し、深いいびきをかき始める武藤。空手部仕込みの野生の直感も、極度の疲労と強力な痺れ薬の前には完敗だった。
深夜。
しん……と静まり返った客間に、ギィ……と不気味な足音が忍び寄る。
月光を浴びて鈍く光る巨大な出刃包丁を握りしめていたのは、エプロン姿の服部だった。
丸くなって眠るかつての教え子の背中に近づき、服部は苦渋に満ちた表情で包丁を振り上げる。
「ごめんね、松生くん……。先生もね、こうでもしなきゃ、このイカれた世界じゃ生きていけないんだよ……ッ!」
涙を浮かべ、振り下ろされる刃――。
だが、その刃が武藤の首筋を捉える直前、空気を切り裂くような鋭い感触が走った。




