血塗られた一週間と、居酒屋の鉄拳
第20話:血塗られた一週間と、居酒屋の鉄拳
比婆山での虎退治の功績を買われ、出雲の街で役人(都頭)としての職を得ていた武藤松生。
その日、勤務を終えて晴れやかな顔で帰宅した武藤を迎えたのは――冷たい床の上で、血を吐いて横たわる兄・大樹の遺体だった。
静まり返った部屋には、誰もいない。妻であるすずかの姿も消えていた。
固く冷たくなった兄の体を抱きしめ、武藤の喉から絞り出すような絶叫が漏れる。
「よくも……よくも兄貴を……ッ! 誰の仕業か知らんが……絶対に覚えておけよ……!」
武藤は役人としての立場と、持ち前の鋭い観察眼を駆使し、単身で犯人捜しを開始した。
大樹の遺体に残された重金属中毒の痕跡。近所の茶屋で囁かれていた密通の噂。そして、大樹が倒れた直後から豪遊を始めた西野慶次とすずかの動向――。
点と線が繋がり、真実が炙り出されるまでに時間はかからなかった。
一週間後。
出雲の街で最も賑わう居酒屋の二階で、西野とすずかは酒を交わし、大樹の残した財産を前に嘲笑い合っていた。
「これで邪魔者は消えたわ。あんな冴えない男、最初から不愉快だったのよ」
「ククッ、街の役人どもも金で黙らせた。俺たちの天下だ――」
――ドカンッ!!!
一瞬だった。階段を突き破り、居酒屋の二階へと躍り込んできた影があった。
怒りで眼光を血のように赤く染めた、武藤松生だった。
「ひっ……!? ま、松生……何でここに――」
「言い残すことはそれだけか、ゲスどもが」
悲鳴をあげる暇すら与えなかった。
踏み込んだ武藤の右拳が、西野の顔面を打ち抜く。鼻骨が砕け、歯が吹き飛ぶ。のたうち回る西野の胸板を力任せに踏みつけ、武藤は一切の容赦なく二発目、三発目の鉄拳を叩き込んだ。
内臓を破裂させ、絶叫とともに血の泡を吹いて動かなくなる西野。
「ひぃぃぃっ! やめて! た、助けて松生くん! 私は西野に無理やり――」
命乞いをするすずかの首根っこを、武藤は冷酷な手つきで掴み上げた。
「兄貴の無念……地獄で味わってこい」
冷たく言い捨て、武藤はすずかの体を床へと叩きつけ、その息の根を止めた。
返り血で制服を真っ赤に染めた鬼神のごとき少年の前に、居酒屋の客や給仕たちはただ腰を抜かして震え上がるばかりだった。




