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伏魔の恵  作者: 水前寺鯉太郎


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夜の山道と冷めたつぶやき

第2話:夜の山道と冷めたつぶやき


 林間学校二日目の夜。

 肝試しの列は、二人一組で薄暗い山道を進むことになっていた。

 恵太の数歩前を歩いていたのは、隣のクラスの女子――ゆきだった。手に持った懐中電灯の光が、心もとなく足元を揺らしている。

「きゃっ……!」

 短い悲鳴とともに、ゆきの影が視界からふっと消えた。

 山道の脇、巨大な木の根が張り出した斜面で足を滑らせたのだ。

「ゆきさん!」

 恵太は考えるより先に体が動いていた。足元を照らす手元の灯りを斜面へ向け、滑り落ちる。

 湿った土と落ち葉が崩れる感触。伸び切った木の枝が制服越しに腕を裂く。それでも足を止めなかった。

 数メートル下。太い幹に引っかかるようにして、ゆきがうずくまっていた。

「大丈夫か!?」

「う、うん……っ。足首、ちょっと痛いけど……」

 声は震えているが、しっかりしている。大きな怪我ではなさそうだ。恵太は胸を撫で下ろし、ゆきの脇に手を差し入れて抱え起こした。

「上まで戻るぞ。俺に体重を預けていいから」

「うん……ごめんね、恵太くん」

 斜面を這うようにして一歩ずつ登る。

 あと少し、本道まで手が届くところまで来て――恵太はゆきの体を抱え上げ、先に道の上へと押し上げた。

「足から上がれ! 早く!」

「え、でも……っ」

「いいから!」

 ゆきの身体が道の上へ引っ張り上げられたのと、恵太が踏み台にしていた足場が崩れ去ったのは、ほぼ同時だった。

 支えを失った体が、垂直に落ちる。

 伸ばした指先は、夜の空気を虚しくかくだけだった。

「恵太くんっ!」

 ゆきの金切声が、みるみる遠ざかっていく。

 視界が目まぐるしく回転し、黒い枝葉と月夜が交互に吹き抜けた。

(――やべ)

 それが、暗転する意識の底で恵太が呟いた、やけに冷めた一言だった。

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