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伏魔の恵  作者: 水前寺鯉太郎


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出雲の再会と、囁かれる密通

第18話:出雲の再会と、囁かれる密通


 比婆山の虎退治で一躍「英雄」となった武藤松生だったが、有名税の煩わしさを嫌い、風のようにその地を去っていた。

 山を抜け、出雲の賑やかな城下町へと辿り着いた武藤は、そこで思わぬ人物と再会を果たす。元の世界で離ればなれになっていた実の兄――武藤大樹(むとう だいき)だった。

「松生……!? 無事だったのか、松生っ!」

「兄貴……! 生きてやがったか!」

 武力も度胸もないが、小柄で真面目、弟思いの優しい兄・大樹。

 異世界へ流された後、この出雲の街でささやかな商売を始めていた大樹は、なんと元の世界で校内マドンナ・ミスコン優勝者として有名だった同級生――青木すずかと結婚し、一見すると幸福な家庭を築いていた。

「すずかちゃんが俺みたいな奴を選んでくれたんだ。本当に夢みたいだよ」

 照れくさそうに笑う大樹と、その横でしなやかに微笑む美しいすずか。

 だが――武藤は、すずかが兄に向けた一瞬の眼差しの中に、冷ややかな「蔑み」の色彩が混ざっているのを逃さなかった。

 再会を喜び、兄の家に身を寄せて数日。

 空手仕込みの鋭い直感を持つ武藤の耳に、街の路地裏で囁かれる不吉な噂が届く。

「聞いたか? あの大樹の嫁さん……昼間、兄亭主が留守の隙に、街の金持ちの男を家に引き入れとるらしいぞ」

「相手はあの色男か……哀れなのは大樹だな」

 噂を聞いた瞬間、武藤の拳がミシリと音を立てた。

 自分を温かく迎えてくれた心優しい兄。その兄を裏切り、裏で影を忍ばせる何者かの存在。

 出雲の青空の下、武藤の内に静かで激しい「怒りの炎」が燻り始めていた。

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