血塗られた手紙と、不機嫌な拳士
第16話:血塗られた手紙と、不機嫌な拳士
葦ヶ原砦へと辿り着いた長谷川たち一行。しかし、狭量な首領・物部大角は、大集団の突入に恐怖し、またしても保身のために彼らを追い出そうと冷酷な言葉を言い渡した。
「我が葦ヶ原砦は慈善事業ではない! 追手を引き連れてきた厄介者など置くわけにはいかん!」
その浅薄な態度に、ずっと理不尽に耐え続けてきた宗一郎の中で、何かが音を立てて弾けた。
「……貴様のような小物が、これ以上この砦を汚すな!」
一閃。宗一郎の放った鋭い矛先が物部の喉元を穿ち、初代首領は悲鳴をあげる暇もなく息絶えた。こうして不満を抱いていた幹部たちにも迎えられ、長谷川蓋人を新たなる首領とする『新生・葦ヶ原砦』が誕生したのだった。
首領となった長谷川は、命の恩人である恵太へ手厚いお礼の手紙と餞別を贈る。だが――この誠意の書状が、取り返しのつかない悲劇の引き金となった。
鄆代郷の街中で、その手紙が恵太の手に渡る直前、一人の少女に奪われてしまったのだ。
鳥羽あきこ――元の世界で恵太を執拗にいじめていた女番長であり、この異世界でも恵太の「弱み」を握ろうと企む不吉な影だった。
「へぇ……山賊の首領と通じてるんだ? これを官軍にバラされたくなかったら、わかるよねぇ、恵太くん?」
嘲笑と執拗な恐喝。目の前の理不尽と、仲間たちへ及ぶ破滅の危機。追い詰められた恵太の視界が真っ赤に染まる。
「やめろ……仲間を……壊させはしない……!」
気がついた時、恵太の手には血に濡れた刃が握られ、足元には動かなくなったあきこが横たわっていた。
善意と正義を胸に生きてきた少年の手が、ついに「殺人」の罪で汚れた瞬間だった。
呆然と立ち尽くす恵太だったが、知らせを聞いた智也たちの手引きにより、間一髪で街を脱出。かつて宗一郎を庇護した柴田兵衛の屋敷へと逃げ込む。
打ちひしがれ、罪の重さに震える恵太を迎えたのは、そこに身を寄せていた一人の男だった。
空手部で培った圧倒的な体術と、眼光の鋭さを誇る中学三年生――武藤松生。
「おい、お前……ずいぶんと重いもんを背負った顔をしてやがるな」
「林間学校なんて行きたくなかった」と不機嫌そうに呟きながらも、どこか不器用な情の厚さを見せる武藤。この体術の達人との出会いが、逃亡者となった恵太の運命を再び大きく動かし始めるのだった。




