名無しの死闘と、間悪い男の誇り
第12話:名無しの死闘と、間悪い男の誇り
追剥ぎの期限となる三日目。山麓の街道で槍を握りしめ、葛藤の泥濘に沈んでいた宗一郎の前に、一人の旅人が通りかかった。
右頬に鮮やかな青いあざを持つ少年――恵太の隣のクラスにいた青柳志郎だった。
異世界へ落ちた後、持ち前の生真面目さと剣道部で鍛えた打刀の腕を買われて武官に登用されていた志郎。だが、「とにかく間が悪い」という致命的な不幸体質が災いし、護送中の重宝を奪われる不祥事を起こして無職の身へと転落していたのだ。
「そこを動くな……! 所持品を置いていけ!」
「無礼者! 武士の誇りを捨てた賊などに渡すものか!」
生きるために誇りを捨てようとする元近衛師範と、誇りを守るために刀を抜く元武官。
刃と槍先が激しく交錯する。キィンと甲高い金属音が静寂の街道に響き渡り、互いの息が白く乱れた。一対一の勝負において無類の強さを誇る志郎の鋭い踏み込みと、宗一郎の重厚な古流槍術。五十打を越えても決着がつかない死闘に、物部大角の差し向けた葦ヶ原砦の伏兵たちが息をのんだ。
(な、なんだあの腕前は……! 宗一郎と同等、いやそれ以上か!?)
物部は目を輝かせ、二人の間に割って入ると、志郎の手を掴んで必死に持ち上げ始めた。
「素晴らしい! 君のような猛者こそ葦ヶ原砦に必要だ! 宗一郎の対抗馬として、ぜひ我が砦の幹部に迎えたい!」
あからさまな宗一郎への牽制。しかし、志郎は冷ややかな目で物部を睨みつけると、その手を振り払った。
「断る。近々、朝廷から『大赦』が出ると聞く。私は官職へ復職し、武士としての誇りを取り戻すのだ。山賊の仲間に落ちぶれるつもりはない」
プライド高く吐き捨て、志郎は未練なく立ち去っていった。
思惑が外れ、ぐぬぬと苦虫を噛み潰す物部。志郎と対等に渡り合った宗一郎の凄絶な強さを突きつけられた以上、もはや拒絶する口実は存在しない。物部は渋々、宗一郎の梁山泊入山を認めざるを得なくなったのだった。




