水郷の砦と試練の誓文
第11話:水郷の砦と試練の誓文
護送の道中、刺客に命を狙われ続けた宗一郎だったが、義兄弟・大八の暗躍と、道中で出会った大富豪・柴田兵衛の手厚い庇護によって、奇跡的に幾度もの死線をくぐり抜けていた。
名士でありながら侠客とも通じる柴田は、高田の権勢から宗一郎を完全に匿うため、ひとつの道を示した。
「葭洲の湿地帯に、官軍の手も届かぬ自然の砦がある。『葦ヶ原砦』だ。その首領・物部大角は私の旧知。彼を頼るといい」
柴田の紹介状を胸に、宗一郎は鬱蒼としたアシの茂る水郷・葦ヶ原砦へと辿り着く。
だが――出迎えた首領・物部大角は、柴田の旧友とは名ばかりの、器の小さい狭量な男だった。
宗一郎の佇まいから溢れ出る本物の「近衛師範」としての圧倒的な凄みと武芸の腕を前にした物部は、己の立場が脅かされることを恐れ、あからさまに入山を渋り始めたのだ。
「うむ……紹介状はあるとはいえ、我が葦ヶ原砦は誰彼構わず入れるわけにはいかんのだ……」
あからさまな難色を示す物部に、周りの幹部たちが「柴田様の顔を潰す気ですか」と取り成す。追い詰められた物部は、意地の悪い笑みを浮かべて厳しい条件を突きつけた。
「ならば『入山の試練』を課す! 三日以内に麓の街道を通る者を襲い、追剥ぎを成功させてみせよ。それができねば、去ってもらう!」
人を傷つけることを嫌い、正義と誠実を重んじてきた元・近衛師範。
追剥ぎという名目での「強盗」を命じられ、宗一郎は呆然と己の手を見つめた。
誇りを捨てて悪に染まるか、行き場を失って野に倒れるか――男は冷たい風が吹き抜ける湿地帯の岸辺で、静かに一本の槍を握りしめるのだった。




