↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『伯爵家次男に転生した俺は、前世の知識で世界を変えていく』  作者: バモス
第一章 幼少期編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
79/95

第79話 剣と魔法の成長確認

 百本の釘を作り終えてから、数日。


 アルスの日常は少しだけ落ち着きを取り戻していた。


 朝は剣術。


 午前は勉強。


 午後は鍛冶。


 その合間に魔法。


 夜は魔力操作と身体操作。


 忙しい。


 だが、アルス本人は不思議と嫌ではなかった。


 むしろ。


(毎日できることが増えてる)


 それが楽しかった。


     ◇◇◇


 そんなある朝。


「アルス」


 父カインが訓練場で声を掛けた。


「今日は少し、今のお前がどこまでできるか見せてもらおう」


「今の僕?」


「ああ」


 父の隣には、兄アレックス。


 さらに家庭教師リーナもいる。


「剣術」


「魔法」


「それぞれ一度、成長を確認する」


 アルスは少し緊張した。


「試験みたいなものですか?」


「試験ではない」


 父は笑う。


「できないことを見つけるための確認だ」


「……それなら少し安心しました」


     ◇◇◇


 最初は剣術。


 相手は兄アレックス。


「手加減はする」


「ありがとうございます」


「でも油断するなよ」


「はい!」


 二人は木剣を構える。


 父が一歩下がった。


「始め!」


 アレックスが踏み込む。


 速い。


 アルスは真正面から受けない。


 半歩ずれる。


 木剣を斜めに合わせる。


 カンッ!


「おっ」


 兄の一撃を流す。


 そのまま前へ出る。


 しかし――。


「甘い!」


 アレックスが体勢を立て直す。


 横薙ぎ。


 アルスは腰を落とした。


 ヒュッ!


 木剣が頭上を通る。


(今!)


 踏み込む。


 胴へ一撃。


 だが。


 カッ!


 兄の木剣が受け止めた。


「惜しい!」


     ◇◇◇


 そこから数合。


 アルスは前世の身体操作を活かしながらも、五歳の身体で無理をしない。


 足運び。


 重心移動。


 力を流す。


 相手の動きを見る。


 以前より、明らかに動けている。


 だが――。


 体格差。


 筋力差。


 経験差。


 それは簡単には埋まらない。


「そこ!」


 アレックスが踏み込み。


 コツン。


 アルスの肩へ木剣が触れた。


「参りました」


 アルスは木剣を下ろした。


     ◇◇◇


「どうだった?」


 父が尋ねる。


「まだ兄様には勝てません」


「それはそうだ」


 アレックスが苦笑する。


「僕が負けたら困る」


 父も笑った。


「だがアルス」


「はい?」


「動きはかなり良くなった」


「力で受ける癖も減った」


「ありがとうございます」


 それだけで嬉しい。


     ◇◇◇


「次は魔法だ」


 場所を魔法訓練場へ移す。


 的がいくつか並べられている。


 リーナが説明する。


「今日は威力を見るのではありません」


「四属性を続けて使い、どれだけ安定して制御できるか確認します」


「分かりました」


 まず火。


 アルスは手を前へ出す。


「《ファイアー》」


 小さな炎。


 大きすぎない。


 一定。


「維持してください」


「はい」


 三秒。


 五秒。


 十秒。


「消して」


 炎が静かに消える。


     ◇◇◇


「次、水」


「《ウォーターボール》」


 水球が浮かぶ。


 今度は形を崩さず維持。


「次、風」


「《エアーフィールド》」


 一定方向へ風が流れる。


 紙片が同じ角度で揺れる。


「次、土」


「《ロックツブテ》」


 小石が浮く。


 落とさない。


 暴れさせない。


 ゆっくり地面へ戻す。


     ◇◇◇


 リーナが目を細めた。


「……かなり安定しています」


 父もアルスを見る。


「疲れたか?」


「少しだけ」


 本当はもっといける。


 でも――。


(ここで出しすぎるのはまずい)


 アルスは自分を抑えた。


 父の前だからこそ。


 少しずつ。


 自然に。


     ◇◇◇


 だがカインは気付いていた。


 完全ではないにしても。


 この子は、何かを隠している。


「アルス」


「はい?」


「お前は」


 少し間を置いて。


「どこまでできる?」


 その一言に。


 アルスの心臓が跳ねた。


     ◇◇◇


「どこまで……ですか?」


「ああ」


 父の声は優しい。


 責めているわけではない。


 ただ。


 知りたい。


 そういう声だった。


「魔法も」


「剣術も」


「お前はいつも、少し余裕を残しているように見える」


 リーナも静かに聞いている。


 アレックスも驚いた顔でアルスを見る。


(やっぱり……気付いてた)


     ◇◇◇


 アルスは少し迷った。


 全部言うべきか。


 転生者であること。


 前世の知識。


 神から与えられた特典。


 それはまだ怖い。


 でも。


 家族には、いつか話したいとも思っている。


「……少しだけ」


 アルスは正直に答えた。


「少しだけ、今よりできます」


 父の表情は変わらない。


「どのくらい?」


「自分でも、まだ分かりません」


 それも本当だった。


     ◇◇◇


「魔力操作は?」


「……毎晩やってます」


 アレックスが驚く。


「毎晩?」


「うん」


「いつから?」


 アルスは少し困った。


「ずっと前から」


 リーナが目を見開く。


 父は静かに息を吐いた。


「そうか」


 怒られる。


 一瞬、そう思った。


 しかし。


     ◇◇◇


「アルス」


「はい」


「隠していたことを責めるつもりはない」


「……本当ですか?」


「ああ」


 父は近づき、アルスの頭へ手を置く。


「ただし」


「一人で無理をするな」


「何かあれば話せ」


「家族なんだからな」


 アルスは一瞬。


 何も言えなかった。


     ◇◇◇


 そして。


「……はい」


 小さく頷いた。


「お父様」


「なんだ?」


「いつか」


「ちゃんと全部話します」


 父は少し驚いた。


 しかしすぐに微笑んだ。


「待っている」


     ◇◇◇


 その日の訓練は、そこで終わった。


 兄アレックスが歩きながら声を掛ける。


「アルス」


「なに、兄様」


「毎晩魔力操作してたの、ずるい」


「ずるい?」


「僕も今日からやる」


「……一緒にやります?」


「いいのか?」


「もちろん」


 兄弟は顔を見合わせて笑った。


     ◇◇◇


 午後。


 鍛冶場。


「今日はどうだった?」


 ゴルンが尋ねる。


「剣と魔法の確認でした」


「結果は?」


「まだまだです」


「そうか」


 ゴルンはそれ以上聞かない。


「なら、こっちもまだまだだ」


 槌を一本渡す。


「釘三十本」


「今日は百本じゃないんですね」


「昨日腕パンパンだったろ」


「見てたんですか?」


「職人なめんな」


     ◇◇◇


 夜。


 アルスは自室で手帳を開いた。


 今日の言葉。


 『できることを かくしても かぞくは みている』


 少し考え。


 さらに。


 『いつか ぜんぶ はなす』


 その言葉を書き終えたあと。


 アルスはしばらく手帳を見つめていた。


     ◇◇◇


 前世。


 転生。


 神。


 全属性魔法。


 鑑定。


 身体操作。


 魔力操作。


 それらをいつか家族へ話す。


 まだ怖い。


 でも。


 今なら。


 少しずつなら。


 話せる気がした。


     ◇◇◇


 その頃。


 王都中央行政院では。


「ロイド」


「なんだ?」


「シュゲール領の追加資料、また来たぞ」


「今度は何だ?」


「農具規格と工房工程の件」


 ロイドは書類を受け取る。


 そして一番上にある名前を見る。


 アルス・シュゲール。


「またこの子か……」


 小さく笑う。


 まだ。


 王へ報告するほどではない。


 だが。


 確実に。


 名前が積み重なっている。


     ◇◇◇


 一方。


 アルス本人は。


 そんなことなど知らない。


 今考えているのは。


 明日の剣術。


 魔法。


 鍛冶。


 そして――。


 家族へいつか全部を話す日。


 ただそれだけ。


 けれど。


 この日。


 父カインは初めて。


 息子が自分の想像以上の力を持っていると、はっきり認識した。


 そしてアルス自身も。


 初めて。


 家族へ秘密を話す未来を、現実のものとして考え始めた。


 それは。


 王都へ広がる噂とは別の。


 もっと大切な。


 家族の中で進み始めた、小さな一歩だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。