表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『伯爵家次男に転生した俺は、前世の知識で世界を変えていく』  作者: バモス
第一章 幼少期編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/57

第54話 領地の畑

 初夏の柔らかな日差しが、大地を優しく照らしていた。


 朝食を終えたアルスは、父カインとともに馬車へ乗り込む。


「今日は領地の畑を見に行こう。」


「はい、お父様。」


 馬車は屋敷を出発し、広大な麦畑が広がる村へ向かった。


 窓から吹き込む風は土の匂いを運び、鳥たちが空高く舞っている。


 アルスはその景色を静かに眺めていた。


(本当に平和な領地だ。)


 前世では、スーパーへ行けば当たり前のように食べ物が並んでいた。


 だが、その当たり前は、多くの人々の努力によって支えられている。


 この世界も同じなのだと、アルスは少しずつ理解し始めていた。


     ◇◇◇


 畑へ到着すると、農民たちが一斉に頭を下げた。


「伯爵様、おはようございます!」


「おはよう。」


 父は笑顔で応える。


「皆、作業の手を止めなくていい。」


「今年の作物の様子を見せてもらいに来た。」


 アルスも小さく頭を下げる。


「よろしくお願いします。」


 農民たちは穏やかな笑顔を浮かべた。


「アルス様も、ようこそ。」


     ◇◇◇


 一人の年配の農夫が近づいてきた。


「私はこの村で畑を任されております、トーマスと申します。」


「よろしくお願いします。」


「今日は麦畑をご案内いたします。」


 トーマスはゆっくりと畑の中を歩き始めた。


 風に揺れる若い麦は、一面を緑色に染めている。


「綺麗……。」


 アルスは思わず呟いた。


「ええ。」


「この景色を見るたび、今年も頑張ろうと思えるんですよ。」


     ◇◇◇


「アルス様。」


「麦が育つために、一番大切なものは何だと思いますか?」


 突然の質問だった。


 アルスは少し考える。


「お水?」


「もちろん水も大切です。」


 トーマスは優しく頷いた。


「ですが、一番大切なのは毎日世話をすることです。」


「草を抜き。」


「土を耕し。」


「害虫がいないか確認する。」


「収穫の日まで、一日も気を抜けません。」


 アルスは真剣な表情で話を聞いていた。


(毎日……。)


 またその言葉だった。


 剣術も。


 鍛冶も。


 魔法も。


 農業も。


 結局、一番大切なのは毎日の積み重ねなのだ。


     ◇◇◇


 畑の端には、小さな畑があった。


「こちらでは野菜を育てています。」


 ニンジン。


 玉ねぎ。


 豆。


 葉物野菜。


 さまざまな野菜が元気に育っていた。


 アルスはしゃがみ込み、土を優しく触る。


 柔らかく、温かい。


(いい土だ。)


 前世の知識が自然と頭に浮かぶ。


(堆肥があれば、もっと土は豊かになるかもしれない。)


(でも、まだ早い。)


 今は知識を蓄え、この世界をもっと知ることが先だ。


     ◇◇◇


 その時、一人の少年が畑を走ってきた。


「父ちゃん!」


 トーマスの息子らしい。


 アルスと同じくらいの年齢だった。


「こんにちは。」


「こんにちは!」


 二人は少し照れながら挨拶を交わす。


「アルス様も畑が好きなの?」


「うん。」


「みんなが頑張って育ててるから。」


 少年は嬉しそうに笑った。


「収穫できたら、すごく嬉しいんだ!」


 その笑顔を見て、アルスも自然と笑顔になる。


     ◇◇◇


 昼頃。


 父カインは農民たちへ声を掛けた。


「何か困っていることはありませんか?」


 トーマスは少し考えた後、答えた。


「今年は大丈夫ですが、雨が少ない年は水不足になります。」


 父は真剣な表情で頷く。


「分かった。」


「新しい井戸や用水路についても検討しよう。」


「ありがとうございます。」


 農民たちは安心したように頭を下げた。


 アルスは父の姿を見つめる。


 領主とは命令する人ではない。


 人々の声を聞き、暮らしを守る人なのだ。


     ◇◇◇


 帰りの馬車。


 アルスは窓から広がる畑を見つめていた。


 風に揺れる麦。


 働く農民。


 楽しそうに走る子どもたち。


(いつか。)


(この人たちがもっと楽に農業ができるようにしたい。)


 前世には便利な農具がたくさんあった。


 丈夫な鍬。


 鋭い鎌。


 効率よく耕せる道具。


 鍛冶師になれば、自分にも作れるかもしれない。


 そんな未来が少しずつ形になり始めていた。


     ◇◇◇


 夜。


 部屋へ戻ったアルスは、魔力操作を終えると手帳を開いた。


 今日の言葉を書く。


 『たべものは みんなの がんばりで できている』


 一粒の麦にも。


 一つの野菜にも。


 そこには多くの人の汗と努力が込められている。


 その努力に応えられる鍛冶師に。


 その努力を支えられる領主に。


 そして、この世界を少しでも豊かにできる人間になろう。


 そう心へ誓いながら、アルスは静かに目を閉じた。


 初夏の夜風が窓から吹き込み、麦畑を渡る風のように、少年の新たな夢を優しく包み込むのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ