第50話 魔法書との出会い
図書室を訪れてから数日後。
アルスは朝食を終えると、父カインから許可をもらい、一人で図書室へ向かっていた。
「失礼します。」
大きな扉を開くと、いつものように静かな空気が迎えてくれる。
「おはようございます、アルス様。」
司書のオズワルドが穏やかに頭を下げた。
「おはようございます。」
「今日はどのような本をお探しですか?」
アルスは少し考えてから答える。
「魔法の本を読んでみたいです。」
オズワルドは嬉しそうに微笑んだ。
「承知いたしました。」
◇◇◇
案内された本棚には、魔法に関する本がずらりと並んでいた。
初級魔法。
属性理論。
魔力制御。
生活魔法。
古代魔法研究録。
その中からオズワルドが一冊を取り出す。
『初級属性魔法大全』
「アルス様には、まずこちらがよろしいでしょう。」
「ありがとうございます。」
アルスは両手で本を受け取り、静かに席へ座った。
◇◇◇
ページをめくる。
そこには美しい魔法陣の図が描かれていた。
火属性。
水属性。
風属性。
土属性。
それぞれ魔力の流れが丁寧に解説されている。
(面白い……。)
今までリーナ先生から教わった内容が、図と文章で詳しく説明されていた。
さらに、その先の応用理論まで書かれている。
(魔法陣にも意味があるんだ。)
アルスは夢中になって読み進めた。
◇◇◇
すると、ある一文が目に留まる。
『魔法の威力は魔力量だけで決まらず、魔力操作の精度によって大きく変化する。』
アルスは思わず本を見つめた。
(やっぱり……。)
三年間、毎晩続けてきた魔力操作。
その努力は、決して無駄ではなかった。
むしろ魔法の基礎そのものだったのだ。
神から与えられた力に頼るだけではなく、自分自身で積み重ねてきた努力が、少しずつ実を結び始めている。
◇◇◇
さらにページをめくる。
そこには生活魔法について書かれていた。
火で料理をする。
水で洗濯をする。
風で乾燥させる。
土で畑を耕す。
アルスは自然と笑顔になった。
(この世界の魔法は、本当に生活に根付いている。)
戦闘よりも、人々の暮らしを支えるために使われる場面が多い。
だからこそ、自分もそんな魔法の使い方を目指したいと思えた。
◇◇◇
昼頃。
父カインが図書室を訪れた。
「読書は進んでいるか?」
「はい!」
アルスは本を見せる。
「魔法陣のことも書いてあります!」
父はページを眺めながら頷いた。
「知識を得ることは大切だ。」
「だが、本に書かれていることだけが正しいとは限らない。」
「実際に試し、考え、自分のものにすることが重要なんだ。」
「はい、お父様。」
アルスはその言葉をしっかりと胸に刻んだ。
◇◇◇
午後。
リーナとの授業で、アルスは今日読んだ内容について質問した。
「先生。」
「魔法陣って、どうして必要なんですか?」
リーナは優しく答える。
「魔法陣は、魔力を整えやすくするための補助です。」
「慣れてくれば、魔法陣なしでも発動できる人もいます。」
「でも最初は、形を学ぶことが大切なんですよ。」
「なるほど。」
アルスは納得した。
(剣術の型と同じなんだ。)
最初は型を覚える。
そして、その意味を理解していく。
何事にも共通する学び方だった。
◇◇◇
夕方。
鍛冶場を訪れると、ゴルンが笑いながら言った。
「坊ちゃん、本ばっかり読んでるらしいな。」
「はい!」
「魔法の本です!」
ゴルンは豪快に笑う。
「いいことだ。」
「でも、本だけじゃ鍛冶はできねぇぞ。」
「鉄を打って。」
「失敗して。」
「また打つ。」
「その繰り返しだ。」
アルスも笑顔で頷いた。
「はい!」
「勉強も、練習も頑張ります!」
◇◇◇
夜。
部屋へ戻ると、今日借りた魔法書をもう一度開いた。
ページをめくるたび、新しい発見がある。
前世にはなかった世界。
前世にはなかった知識。
それらを吸収できることが、たまらなく楽しかった。
魔力操作を終えた後、アルスは手帳を開く。
今日の言葉を書き記した。
『まなびは せかいを ひろげる』
知識は力になる。
しかし、その力を正しく使える人にならなければ意味がない。
そう心に誓いながら、アルスは静かに本を閉じた。
図書室で出会った一冊の魔法書は、少年の知識だけではなく、未来への可能性も大きく広げてくれたのだった。




