第48話 初めての鑑定
夜更け。
シュゲール伯爵家の屋敷は静かな眠りに包まれていた。
アルスはいつものように魔力操作の鍛錬を終えると、窓から差し込む月明かりを見上げた。
(神様から授かった力は、魔法や魔力操作だけじゃない。)
もう一つ。
まだ一度も使ったことのない能力があった。
――《鑑定》。
物や人の情報を読み取ることができる、不思議な力。
前世のゲームのような能力だと神は説明していた。
(そろそろ試してみてもいいかな。)
アルスはゆっくりと深呼吸した。
◇◇◇
机の上には、ゴルンからもらった小さな銅板と、バルトから贈られた木の小鳥が置かれている。
まずは銅板へ視線を向けた。
(鑑定。)
心の中で静かに念じる。
すると視界の片隅に淡い光が浮かび上がり、文字が現れた。
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【銅板】
材質:銅
品質:普通
製作者:アルス・シュゲール
状態:良好
備考:初めて鍛冶を体験した記念の作品。
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「……すごい。」
アルスは思わず小さく声を漏らした。
本当に情報が見える。
しかも、自分が作ったことまで表示されている。
(便利だけど……。)
(使い方には気を付けないと。)
◇◇◇
続いて木の小鳥を鑑定してみる。
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【木彫りの小鳥】
材質:オーク材
品質:良品
製作者:木工職人バルト
状態:非常に良好
備考:子どもの健やかな成長を願って作られた贈り物。
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アルスは胸が温かくなった。
「そうだったんだ……。」
ただのお土産ではなかった。
バルトはアルスの成長を願い、一つひとつ丁寧に削ってくれていたのだ。
(今度、お礼を言おう。)
◇◇◇
翌日。
アルスは鍛冶場を訪れていた。
ゴルンは鉄床の手入れをしている。
「おはようございます、ゴルンさん。」
「おう、坊ちゃん。」
アルスはさりげなく鉄床へ視線を向ける。
(鑑定。)
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【鍛冶用鉄床】
材質:鍛鉄
品質:上質
製作者:不明
状態:良好
備考:長年ゴルンが大切に使い続けている鉄床。
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(なるほど……。)
見た目では分からない情報まで表示される。
だが、アルスは表情を変えなかった。
この能力は便利すぎる。
だからこそ、人前で軽々しく使うべきではない。
◇◇◇
その時、ゴルンが笑いながら話しかけてきた。
「坊ちゃん。」
「職人ってのはな。」
「道具を見れば、大体のことは分かるようになる。」
「大事に使ってるか。」
「雑に扱ってるか。」
「全部道具が教えてくれる。」
アルスは思わず苦笑する。
(鑑定がなくても、一流の職人は見抜くんだ。)
神の力に頼るだけでは、本物にはなれない。
そんな気がした。
◇◇◇
午後。
リーナとの授業では、本の手入れについて学んでいた。
「アルス様。」
「本も道具です。」
「丁寧に扱えば、何十年も読むことができます。」
アルスは本をそっと閉じる。
(何でも大切に使う。)
父も。
ゴルンも。
バルトも。
リーナ先生も。
皆が同じことを教えてくれる。
◇◇◇
夕方。
父カインと庭を散歩していると、一輪の花が咲いていた。
「綺麗ですね。」
「そうだな。」
父は優しく微笑む。
「花も、人も、道具も。」
「大切にすれば、その想いは必ず返ってくる。」
アルスは花を見つめながら頷いた。
鑑定では見えないものもある。
人の優しさ。
努力。
想い。
それは心で感じるものなのだ。
◇◇◇
夜。
アルスは再び部屋で《鑑定》を試した。
今度は鏡に映る自分へ向ける。
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【アルス・シュゲール】
年齢:3歳
種族:人族
職業:なし
状態:健康
魔力:非常に高い(年齢基準を大きく上回る)
保有技能:全属性魔法・鑑定・身体操作・魔力操作
備考:日々の鍛錬により魔力量が着実に成長している。
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「やっぱり……。」
神から授かった力だけではない。
三年間積み重ねた努力が、確かに結果として表れていた。
アルスは静かに画面を閉じるように意識する。
(この力は、人を助けるために使おう。)
(人を見下すためでも、自慢するためでもない。)
それが神から授かった力への、何よりの恩返しだと思えた。
窓の外では、満月が静かに夜空を照らしている。
アルスは手帳を開き、今日の学びを書き記した。
『ちからは ただしく つかう』
その短い一文には、幼いながらも強い決意が込められていた。
こうしてアルスは、新たな力《鑑定》を胸に秘めながら、未来へ向かってまた一歩、歩み始めるのだった。




