第46話 水と火の調和
初めての魔法訓練から数日後。
アルスは再び屋敷の訓練場を訪れていた。
青空の下、父カインが優しく微笑む。
「アルス。」
「今日は火に続いて、水属性魔法の実技を学ぼう。」
「はい、お父様。」
アルスは元気よく返事をした。
(今日は水魔法か。)
密かに使える魔法ではあるが、人前で訓練するのは初めてだ。
今日も力を加減しながら学ばなければならない。
◇◇◇
「魔法には、それぞれ役割がある。」
父は訓練場の中央へ立つ。
「火は温もりを与え、時には敵から身を守る力になる。」
「水は命を育み、傷を洗い流し、火を鎮める力にもなる。」
そう言うと、小さな桶を地面へ置いた。
「まずは《ウォーター》を使って、この桶へ水を満たしてみよう。」
「はい。」
◇◇◇
アルスは深呼吸をする。
魔力を静かに巡らせ、水属性へ変換する。
(少しだけ……。)
「《ウォーター》」
手のひらの前に、小さな水球が現れる。
それをゆっくりと桶へ落とした。
ぱしゃん。
澄んだ音が響く。
「素晴らしい。」
父は穏やかに頷いた。
「魔力が安定している。」
「急がず、丁寧に扱えているな。」
「ありがとうございます。」
アルスは少し照れたように笑った。
本当なら桶いっぱいの水も一度に出せる。
しかし今は、それを見せる時ではない。
◇◇◇
その様子を見ていたリーナ先生も口を開く。
「火属性も水属性も、共通していることがあります。」
「何でしょう?」
アルスが尋ねる。
「魔法は、思い通りに動かそうとしてはいけません。」
「魔力の流れを感じ、自然に導くことが大切です。」
アルスは真剣に頷く。
(前世の鍛冶に似ている。)
鉄も無理に打てば割れる。
素材に合わせることが大切だった。
魔法も同じなのだ。
◇◇◇
父は今度は火を灯した小さな焚き火を指差した。
「アルス。」
「この火を消してみよう。」
「はい。」
アルスは再び魔力を集める。
「《ウォーター》」
小さな水の玉が飛び、焚き火へ落ちた。
ジュッ……。
白い湯気が立ち上り、炎が静かに消える。
「見事だ。」
父は満足そうに微笑む。
「火には火の役目があり、水には水の役目がある。」
「どちらが優れているわけではない。」
「状況に応じて使い分けることが大切なんだ。」
「はい、お父様。」
◇◇◇
午後。
鍛冶場ではゴルンが熱した鉄を水槽へ入れていた。
ジュワアアッ!
勢いよく蒸気が立ち上る。
「坊ちゃん。」
「これが焼き入れだ。」
「焼き入れ?」
「ああ。」
「熱した鉄を水で一気に冷やして強くする。」
アルスの目が輝く。
(焼き入れだ……。)
前世で何度も見た光景。
しかし、この世界で見る焼き入れは、また違った感動があった。
「火だけでも駄目。」
「水だけでも駄目。」
「両方あって初めて良い鉄になる。」
ゴルンの言葉に、アルスは大きく頷いた。
◇◇◇
夕方。
父と並んで屋敷へ戻る。
「今日の訓練で何を学んだ?」
父が尋ねる。
アルスは少し考えてから答えた。
「どっちも大切。」
「火も、水も。」
父は嬉しそうに笑う。
「その通りだ。」
「力とは、強い弱いではない。」
「必要な時に、必要な力を選べることが、本当の強さなんだ。」
その言葉は、アルスの胸へ深く刻まれた。
◇◇◇
夜。
いつものように魔力操作を始める。
火の魔力。
水の魔力。
二つを静かに巡らせる。
決してぶつけず、調和させる。
(鍛冶も同じ。)
火と水。
どちらも欠かせない。
そして、人も。
それぞれ違う力を持っているからこそ、支え合える。
アルスは新しい手帳を開き、今日の学びを書き記した。
『つよさは つかいわけること』
まだ幼い文字。
しかし、その意味は少しずつ深くなっていた。
魔法も。
鍛冶も。
剣術も。
すべては人を守り、幸せにするための力。
その思いを胸に、アルスは静かに眠りにつくのだった。




